うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ぐるりのこと。(映画)

ぐるりのこと。 [DVD]
ちゃんとさえしていれば、幸せが得られるはずであってほしいのにそうならない人生と、そこに追い討ちをかけるように母親がかける呪い。追い詰められていく女性の家庭環境がとにかくきつい。描かれ方はデフォルメされているけど、要素としては実際けっこうあることではないかな。
コンプライアンス中毒みたいにキーッとなっていく「ちゃんとした働く女性」の精神の蝕まれかた、男性の若い同僚とモメるやりとりはものすごくリアルだし、書店で崩れるシーンでそれが爆発したときには、わたしのなかでもなにかが小さく破裂した。



さて。
たぶんこの映画は賛否両論なのだと思うけど、主役の夫婦のありさまに、「夏目漱石の世界」を想起せずにはいられない。
妻役の設定には夏目漱石の「門」の御米を思わせる要素があり、映画全体に漂う夫婦の佇まいもこの小説に似ている。
夫役の設定には夏目漱石の「行人」の直を思わせる要素があり、配偶者の家庭環境に翻弄されない鈍感力、己の心の鎮めかたのノウハウが詰まっている。



「もっとうまくやりたかった。でも、うまくできない」
この映画は、うまくやれなかった自分を棚上げする場所がないことを、妻が言語化するシーンがピーク。かなしい出来事のなかにあることをそのままにしておこうとする、夫の男性性に圧倒される。こんなことを演技でやれる人がいるのかと思うけど、リリー・フランキーという人が見事にそれをやっている。


救われたが「必要とされること」「しごと」であること、そこに夫婦の結びつきが種明かしのように絡めて描かれる。法廷画家という職業設定のなかに、「凶悪犯罪者の本音」「狂っているとみなすこと」「悪い人は悪い人であるべきだと決めつけたい心理」という善悪の幻想のグラデーションを織り込んでいく手法にも圧倒される。映画って、こういうことができてしまうんだなぁ。ちょっとやりすぎかなとも思う演出もある。この映画は「原作・監督・脚本・編集」すべて同一人物。映画でしかできないことがなされていました。


DVや借金などの理由以外で恋愛や結婚の関係を終わらせようと思うきっかけって、「この人がわたしと一緒にいてくれるのは、この人にとって "今" 都合があう条件を満たしているからだ。その瞬間が続いているだけ。それだけのことだ」という状況に目が向きすぎてしまうときだと思う。
交換条件や予定調和を蹴散らす「愛」というものの描きかたに、こんな手法もあるんだな。二度観ると、「ちゃんとしてる」「逃げない」という呪いの言葉の恐ろしさが沁みます。


ぐるりのこと。 [DVD]
ぐるりのこと。 [DVD]
posted with amazlet at 15.04.12
VAP,INC(VAP)(D) (2009-02-25)