むかーし読んだ中で、これだけは印象を憶えていたつもりなのだけど、やっぱり大人になってから読むとぜんぜんちがう。
でも、この部分を子どもながらにもわかっていた記憶があるのもおそろしい。
悩みから抜け出るときに、主人公が気づいてしまうこと。
――人間の心には互に矛盾した二つの感情がある。勿論、誰でも他人の不幸に同情しない者はない。所がその人がその不幸を、どうにかして切りぬける事が出来ると、今度はこっちで何となく物足りないような心もちがする。少し誇張して云えば、もう一度その人を、同じ不幸に陥れて見たいような気にさえなる。そうしていつの間にか、消極的ではあるが、ある敵意をその人に対して抱くような事になる。――
こういう気配はたまたま耳にする機会があるかないかだけで、とても身近なもの。この人の前で幸福になったら、意地悪をされるかな、と感じた些細な瞬間を思い出したりした(「のび太のくせに生意気だぞ」みたいな世界が身近にあるの)。
「鼻」は、そんないろいろな思い出したくないことをひっぱり出してくれるのだけど、芥川作品はおしなべて上品なので、悪酔いした翌朝のような気分にならない。「どす黒いものを下から掻き出して見せて終わり」だけではない、重くなりすぎないセンスがあるのだけど、そこに明確な逃げがあるわけでもない。設定の妙かな。
▼余談:それはさておきこのラブレターはヤバい。グリップが強すぎる。女子はキュン死注意。
(リンクはそれを書いた旅館のサイト)
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