臨済宗円覚寺派管長さんの法話ログ本です。
文字が大きかったので道場へ行くバスの片道で読み終えてしまったのですが、「なるほど法話というのは、こういう噛み砕き方をするのね」とか、広く多くの方に説明する現実的な実例として参考になりました。こころのお話などは、そこまでの話だとちょっと気持ち悪いところで終わっていたりするのですが、民間に開かれたお寺で「真我」の話まで深堀りしたら、いまの日本の宗教への理解ではやっぱり誤解を招くことになったりするのかな、なんてことも思ったりしました。
何箇所か、ご紹介します。
＜24ページ 「己事究明」の大事 より＞
（佛教では）「性（しょう）」「相（そう）」「用（ゆう）」という分け方がある。
「性」は、人間の目に見えない部分です。「あの人は根性が悪い」などという言い方がありますが、人の心の根っこを示します。「性」は外には現れません。
「相」は、姿です。これは目に見えます。あなたの目に映る姿、それが「相」です。
「用」は、働きです。サラリーマンの方々は、働きに応じて給料が上がったり下がったりします。ですから、働きは評価できるもの。表面に現れます。
三つのうち、「性」だけは目に見えません。その見えないもの、私を支えて、ここに在らしめているものは何か。それは、自分の命の不思議と申し上げてもよいでしょう。この有難い命に、気がついたときに、人ははじめて慈悲の心、人を慈しむ気持ちが生まれる。
人は、自分の命の有難さに気づくことで、他人を慈しむ気持ちを持つことが出来る。他人と喜び、他人と共に生きる世界です。
「姿」とか「用」とかっていう説明のしかたは、とってもリアルでよい説明だな、と思います。「性（しょう）」が評価されるようなシステムが、組織ではなくても、どこかにあったほうがよいよね…。それは、親や友達からの理解でもかまわない。「あなたの奉仕の精神は美しい」と言ってくれる仲間が身近にいることが、ありがたい環境なのではないかと思います。
＜52ページ タイトルそのまま＞
幸せとは、分数のようなもの
分母が欲望で、分子は満足
今の幸せ、今日一日が足りれば、幸せ。それ以上のことを求めると、不幸せを自分で生成することになる。ということをこんなに短い言葉で表現するセンス。素晴らしいなぁ。
＜67ページ 即今只今 「心が生きる瞬間」を楽しむ より＞
夢窓國師（夢窓疎石 ─ 1275〜1351）は、円覚寺の第十五世であり、京都へお出でになり天龍寺をお開きになった方です。
その夢窓國師に極楽に 行かんと思う 心こそ
地獄に落つる 初めなりけり
という歌があります。
ひとつまえの引用と同じ感想です。
＜125ページ 私が、今、法衣を着ていられるのは 一冊の書物のお陰 より＞
村上専精さんは『佛教統一論』の序文に、こう書いておられる。余は元来真宗の徒なるも、今や真宗を研究せんとするにあらず
又、禅宗を攷究せんとするにあらず、（私は真宗のことも禅宗のことも勉強しようとは思わぬ。）また、天台・真言もしくは華厳・法相などを学ばんとする者にあらず、余は佛教を研究せんとする者なり、余、本論研究の眼中には（この佛教統一論を書くのには）、宗派あることなし。
序文にはっきりと書いてある。この方は東本願寺＜浄土真宗＞の方です。
私は佛教の枝葉はたずねない。佛教の大本、幹、或いは根っこを求めて、この本を書くんだと。
ヨーガにも同じことが言えます。ハタヨガだろうが、アシュタンガだろうが、クンダリーニだろうが（すべてハタヨガの一部ですが）、目指すところは心身統一。わたしはわりといろいろなスタイルのヨガにポン、と飛び入りしたりします。そこで見ていることは、「講師の方のボキャブラリ」だったりします。
自分の心身統一へのイメージの確認に、他の人の言葉が助けになるありがたさ。同士の存在のありがたさ。
＜162ページ 道を学ばば、先ず須く貧を学ぶべし より＞
「本当の坊さんとは、本当の寺院とは如何にあるべきか」を生涯をかけて自らに問い続け、実行された友松円締さんでした。
その友松さんの言葉に、
「佛教のためや宗旨のために、寺院は存在するのではない。世の中のため、人人のために役立つ寺、それが生きた寺院である。坊さんだけのために役立っているものは寺院ではない」
と、こう仰った。
「ヨギとは、道場とは」と思ったときに、沖先生の根ざしていたことに通じるものを感じました。
「老人のほうが邪気が多くて大変な場面」について、日本の古いヨギの方々（特に天風師）が言及されていたりことを思い出しました。年齢を重ねながら、自分や周りの人々が、これからどんなふうに仏教の教えに向き合っていくのかな、なんてことを考えました。
