うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

「食糧危機」をあおってはいけない 川島博之 著

お友達のユキちゃんちの本棚から借りてきました。
食糧危機ということばに「どれくらいの空腹?」という疑問がありながら、想像ができないままに決定的な危機を経験せずこれまで生きてきて、いまだにつかめない「食糧危機」。世界の「恵まれない子どもたち」の飢えたイメージを映像で何度か見たことがあるけれど、その背景を理解しているかといえば、していない。
でもこの本を読んで、地球をひとつの共有する自然耕地と考えたとき、食糧危機というのは幻想かもしれない、と思いました。地球がひとつの与え合う国であれば。
この本は、各国の経済政策の背景や、国民性や宗教的な価値観から見る食糧摂取の事情にも触れ、「こうなると、○○が足りなくなり、飢える」というあおりに対し「こうならないから」というごく当たり前の示唆を繰り返します。

いくつか、メモしたところを紹介します。

<38ページ インド人はベジタリアン より>
 たとえばビジネスの世界で成功してリッチになったとします。社交界のような上流の人たちが集まる場所で食事する機会に、その人がうっかりムシャムシャ肉を食べていると、カーストの低い身分の者、そうでなくても、人から格下として扱われても構わない人間として見られてしまいます。そういうことがあるため、インドでは社会的に成功すれば成功するほどベジタリアンになってゆく。少なくとも人前では肉は食べなくなっていくのです。

アメリカで働くインド人の知人などもそうですが、このへんは、かたくなです。

<117ページ 先進国同士の穀物の押し付け合い より>
 食糧危機について日本人が真剣に憂慮している一方で、WHOの交渉で先進国が話し合っているのは穀物の押し付け合いなのです。アメリカ、ヨーロッパなどの先進国の輸出国同士が、「俺のつくった穀物をお前買えよ」「いや俺のつくった穀物をお前が買えよ」と言って喧嘩しているわけです。とても開発途上国穀物など買ってあげられる状況ではありません。

なんだそうです。

<118ページ 先進国同士の穀物の押し付け合い より>
 しかし彼(エチオピア人の留学生)に聞いても、「エチオピアに帰ったらもちろんお米は食べません。エチオピア人が日本から援助米をもらっても困ってしまうでしょうね」と言います。彼らはそれより、「日本のような先進国と比べたら私たちは決定的に貧しいのです。他には何の技術もありません、でも穀物をつくることはできるから、穀物を増産して、余った分を日本や欧米に輸出して、そのお金で自分たちで新しい産業に投資したり、学校を建てたりしたいのです」と言います。

もう忘れてしまったけど、米不足のときにタイ米ですら嫌うあの感覚。お金をあげるのではなく、循環のために消費するものをチョイスするという還元のしかたがある。

<143ページ 「世界同時不作」への疑問 より>
三〇年以上前に決めた在庫水準が今も適切でしょうか。ロジスティックスが大きく進歩して、世界のどこにでも適切に適量を送ることができる時代になっている今日では、適正在庫水準もずっと低くて構わないはずで、見直されるべきです。

これだけベビーブーム世代が子どもを産まずに「メタボ対策」をする中で、そもそも何十年も前の感覚でいいのか、という疑問もあります。

<200ページ 横軸だけでなく、縦軸も重要である より>
 他の要素との関係で見る視点を横軸とすれば、時系列で見る視点は縦軸です。
 農業や食糧生産をそれ一つだけ見て考えるのではなくて、社会のさまざまな要素との関連で見てゆく。次に歴史的経緯の中で、現在どこにいて、今後どうなるのかを見てゆく。(中略)
 食糧危機を唱えている人たちの議論を聞いていると、この歴史的な経緯を見落としていると感じられるです。

もう問題提起なのか、危機ゴシップなのかわからなくなってくる。


この本の第五章では、バイオ燃料アメリカの農業政策のからくりの説明があります。
第七章には、日本は他の国と違い、終戦直後の配給制度がうまく行ったことで、「国じゅうが飢えた」という体験を実現した。これが、「貧しくても、一律の食糧危機ではなく、経済力のレベルによってグラデーションがある飢え方」である他国とは圧倒的に違う価値観を生み出した原因、として説明があります。

「食糧危機が来ると国じゅうが飢える」というイメージがなんとなく刷り込まれているけれど、情報にあおられてその危機感を持つ人も、テレビを見て「お取り寄せ」を楽しみ、美肌になると紹介された食べ物に列をなしたりする。「なんとなく世界の問題にも目を向けている」という感覚で情報を得るよりも、「そもそも、アメリカ人ほどには肉を食べられない」「断食の事態になったら、国民は健康になるのではないか」と、ふとわいてくる実体験からの智恵による逆算のほうが正しい気がする。
過食が原因でもたらされている医療問題と表裏するのが食糧危機。うちこはそんな感想を抱きました。

「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)
川島 博之
文藝春秋
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3 動的な価格の分析も欲しかったです!
4 「食糧危機」なんてこない方が気が楽だけど・・・
3 神は細部に宿る
5 自分の頭で真実を考えるヒントを与えてくれる本です
3 一つの論点として有用。