先日紹介した「静坐のすすめ」の冒頭は、新渡戸稲造さんの紹介から始まります。一世代前の「五千円札」のおじさま。
新渡戸稲造さんといえば「武士道」を書いた人、という知識しかなかったのですが、「修養」という著作があり、「静坐のすすめ」では、その中の第十四章「黙思」を抜粋。忙しく大勢の人と関わる仕事をしている人には、激しく共感する部分が多いかと思います。
ずばり、「学校では教えてくれない、案外ヨギな新渡戸稲造」。いくつか紹介します。(昔の本なので、違和感のある言い回しは、「時代」です)
<12ページ 「黙思」新渡戸稲造 黙思とは何か より>
坐禅の妙味と黙思 から一部引用
恥ずかしい話であるが、ぼくは平常から忙しくて、せわせわしていて、長く黙思することができない。静かに黙思する必要のあることはよく知っている。ぼくは幼年時代こういう話を聞いた。ぼくの祖父が、或る時、禅僧に向かって、坐禅とはいかなるものかと聞いたとき、その僧が、坐禅といっても結跏趺坐することではない。武士でも、いざという時には、いかに大胆な人でも、ほとんど夢中になって、相手の姿もわからなければ自分の立場もわからなくなり、敵の隙をみて乗ずることもできない。しかしこのとき、一歩退いてみると、たちまち相手の隙もみめ、心ももちなおされる。この一歩退く工夫をするのが、すなわち坐禅であるといったそうである。すなわち、興奮的生活から一歩退いて、静かに自分の身の上を心の中に反省し、自分の態度を正すのが一種の坐禅ではないだろうか。つまり坐禅というのも、静かに世の中を去って黙思するのである。自分はいかに忙しくても、一寸の間はできる。これは一寸した心がけでできることであろうと思う。忙しい忙しいというが、外部の忙しいために、精神までも忙しくする必要もなければ、また忙しくしないこともできる。
禅と武士道がブレンドされたエピソードを、この人の言葉で読める貴重なくだり。そして、「外部の忙しいために、精神までも忙しくする必要もなければ、また忙しくしないこともできる。」は名言。
<17ページ 「黙思」新渡戸稲造 黙思の方法 より>
邪念が起こっても継続せよ から一部引用
沈黙するとかえって邪念が起こりやすい。平生は忙しいのにまぎれていたことが、静かに沈黙するため新たに現われてくる。欲も出てくる。人に対する怨みや嫉みも怒こるであろう。ほとんど忘れていた他人の言を想い起こして不快を感ずることもある。今までは多忙にまぎれて潜んでいたものが、隙に乗じて現われ、百鬼が入り込んでくる。これはわれわれ凡夫が常に経験するところである。
ここでやめてはいけない、と。五千円札になるボクでも、そうだよと(笑)。
<21ページ 「黙思」新渡戸稲造 黙思の効力 より>
悲哀の感を養成せよ から一部引用
元来人生は悲哀のものであり、そして悲哀は決して悪なりとは思われない。人生に悲哀のあるのは、酸味の中に甘みがあると同じである。宇治の玉露は味わっているあいだに、その真味が次第に出て、言い知れない妙味がある。人生に悲哀のあるのは、これと同じであると思う。武士は物のあわれを知ると言い来たっているが、ぼくはこれを転倒して、物のあわれを知るは武士であり、あわれを知らぬ者は武士でないと言いたい。
人生の悲哀を玉露にたとえる。素敵だ。
<22ページ 「黙思」新渡戸稲造 黙思の効力 より>
仕事の前には動機を黙思せよ から一部引用
何か或る事をする前に、果たしてこれは何のためにするのか、名利のためではないかと思って正す。名利の念は人情に離れ難い人間の本能のごときものである。自分は最初よりそれを目的とするのでなくとも、知らず知らずの間に、おのずからこれに駆られやすい。それ故に何事をするにしても、待てよ、これは何のためにするのかと、一歩退いて沈思黙考する。また青年が将来の目的を定めるにさいしても、これは名のためにする気か、金のためにする心か、はた人を羨んだり、人の向こうを張るつもりであるのか、何の動機に出たかを考える。また日々の小事でも、手を出す前に同じく自分の心に質問してみる。これは他人にみせびらかすためではないか、賞められるためではないか、礼を受けるためでないかと、一々当たってみないと、ほとんど人間と離れるべからざる第二の天性の如き名誉心、貪婪心にその心を奪われていることがある。この危機にさいして、よく自分の本心を守り誘惑に陥らないようにするのは黙思の力である。
思いっきりヨギ。
ちなみに、以下は東京女子大の会議室に掲げられているという、スワミのことば。
生きた現在に行為せよ!
非ヨギ時代のハイティーン・うちこは、日本史の教科書にぐりんぐりんにいたずら描きしていたに違いない。だって、このフェイス、画欲そそりまくり・・・。新渡戸スワミに謹んでお詫び申し上げます。
▼静坐のすすめ紹介は全5回。このほかの4つ。
●静坐のすすめ 佐保田鶴治/佐藤幸治 編・著
●西洋と東洋の祈りの考察(「静坐のすすめ」より)
●岡田式静坐法、藤田式息心調和法、二木式腹式呼吸法(「静坐のすすめ」より)
●中国の静坐、日本の静坐(「静坐のすすめ」より)
たちばな出版
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