大人も子供も登場人物それぞれに人格の凸凹があって、すれ違ったりぶつかったりしてコミカルなんだけど、その中間に格差社会という大きな現実が横たわっていて教訓めいている。
まるで人間関係のマニュアルのようにも見えて、点子ちゃんが失敗もするけれど大人たちそれぞれに気を使っているのが印象に残り、こういう立ち回りのノウハウって確かにもう子供の頃にすっかり身につけているよな……と思いながら読みました。
作者のケストナーが人間について「人は、子どものころにはもう、おとなになったときの性質をそなえているものだ」と書いていて、それが善の面でも悪の面でも効いている。大人が読むと「ろくでなし」という人間の性質を子供に早い段階で教えようというスタンスで書かれていることがわかります。
差別はいけないと言いながら、素行の悪い他の家の子と関わって欲しくないと思う親の複雑な気持ちを代弁しているかのようにも見える。
点子ちゃんは自分をよく思っていない人に対しては、いじめられないようにその人が大切にしている世界観にあわせたり、ユーモアで切り抜けたりする。これから自立していく子供が社会勉強のために受ける模擬面接を見せられているかのよう。
空想好きは行き過ぎると命に関わることや、知りたがりは喜びの命取りになることや、尊敬できる人物がいることの大切さ。それをこんなにかわいらしい物語の中で伝えてくれる。ちゃんと子供向けの本として書かれているのが、どうにもすごい。
わたしは序盤の以下の時点で既にハートを射抜かれちゃった。
そこには、ダックスフントのピーフケが、ちょこんとすわって、おでこにしわを寄せていた。ついでに言っておくと、なにもピーフケは、ごきげんななめで、おでこにしわを寄せているのではない。そうでななくて、頭の皮があまっているのだ。それで、皮としてはどこに行けばいいのかわからないので、ちぢこまっているのだ。
これピーフケがいなければ、けっこうきつい環境だぞ……と思わなくもない設定だったので、犬であること以上の仕事を全くしない存在が効いている! 絶妙。
全部読み終えるとわかるケストナー説法のなかでは、「知りたがりについて」「自制する心について」が、いまのわたしに特に沁みました。
わたしは驚いたり傷ついたりするほうが生きてる感じがするのもまた事実、と思うことがあるので、痛いとこついてくるなと思いました。
- 作者:エーリヒ ケストナー
- 発売日: 2000/09/18
- メディア: 単行本