うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

むらさきのスカートの女 今村夏子 著

存在感がうすく仕事もできないが妄想力は逞しく行動力もある。この行動力の源はどこにあるのだろう。こんな人には会ったことはない。
そのくらい、よくよく読むとありそうでありえない話ではあるのだけど、その行動力の源が気になってしょうがない。

 

人の行動のエネルギー源といえば、憧れとか野心とか山っ気とか恩義の心とか感謝の気持ちとか、そうでないものでも嫉妬心とか復讐心とか孤独からの脱却だとかだいたいそういうものだと思っていたし、心よりも魂により近づくような宗教の世界で語られる愛や慈悲のようなものについても、わたしはそれなりに考えたことがあるつもりだった。


この小説の世界で描かれる行動エネルギーは孤独からの脱却をひとつの目的としてはいるものの、見たことのないものだった。執着の皮を被った芯にあるものは、精神的なせこさに似たものではないだろうか。アテンションは欲しいけれど、真正面から自分を明け渡したくはない。自分はちゃっかり安全な場所を用意しつつ他人をダシに人生を楽しもうとするこの感じは確実に盗みだ。"せこい" 以上 "非道" 未満。巧妙だ。自分の傷まない範囲で小さくサポートし、相手が傷んだタイミングで最高に派手なサポートに乗り出す。

 

妄想力でリスクヘッジをしておかないと動き出せない。気持ちはわかるが、それは行きすぎだ。そしてこれは女性の貧困を描いた物語ですといわれたら、いっきに気分は重くなる。

帯の書き方ひとつでどうにでもなりそうな、複数の顔を持つ阿修羅像のような小説だった。

 

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女