うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

永日小品 夏目漱石 著


夏目漱石の日常エッセイ。イギリスに住んでいた頃の話もあります。
ちょっとした日常の身体感覚の表現がすばらしくて、眠りについての描写がうまい…。
これは、あるエッセイの出だし。

 寝ようと思って次の間へ出ると、炬燵の臭がぷんとした。厠の帰りに、火が強過ぎるようだから、気をつけなくてはいけないと妻に注意して、自分の部屋へ引取った。もう十一時を過ぎている。床の中の夢は常のごとく安らかであった。寒い割に風も吹かず、半鐘の音も耳に応えなかった。熟睡が時の世界を盛り潰したように正体を失った。
(「泥棒」 より)

こんなふうに盛り潰されちゃったもんだから、泥棒が入っても気づけなかったという話なのだけど、寝落ちまでの描写が上品!



以下は日本の風景なのに、なんとなくインドにいるときの自分の体感を思い出します。

 やがて散歩に出た。欣々然として、あてもないのに、町の数をいくつも通り越して、賑やかな往来を行ける所まで行ったら、往来は右へ折れたり左へ曲ったりして、知らない人の後から、知らない人がいくらでも出て来る。いくら歩いても賑やかで、陽気で、楽々しているから、自分はどこの点で世界と接触して、その接触するところに一種の窮屈を感ずるのか、ほとんど想像も及ばない。知らない人に幾千人となく出逢うのは嬉しいが、ただ嬉しいだけで、その嬉しい人の眼つきも鼻つきもとんと頭に映らなかった。
(「心」 より)

なんというのか、まさにそう、この、超☆ヴァータ感。夏目漱石が書くとこんなに上品になっちゃうんだからもぉ。


こんなふうに日常の映像が文章に変わる脳みそをもっていたらさぞ楽しいのだろうな…いや、実はイライラすることばかりなのかもしれない。
なーんて思いが行ったりきたりしました。



永日小品
永日小品
posted with amazlet at 18.03.24
(2012-09-27)


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