うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

縁の切り方 絆と孤独を考える 中川淳一郎 著


事例はリアル社会の話なのに、終盤では夏目漱石の「こころ」を読んでいるかのような気分になりました。この本の底に流れるポリシーは「私は未来の侮辱を受けないために、今の尊敬を退けたいと思うのです。」という「先生」のセリフそのもの。
前半は「ネットのバカ」に似たトーンだったのに、海外で受けた差別経験、金銭トラブル、大切な人の死の経験から結論づけられていく。


この著者さんの本はただの共感だけでなく、実はその心理を抱えた母数はおどろくほど多く、表面化していないだけの「身近なこと」であることを再認識させてくれる。この本にあった以下は、ここ数年で出会ったり、今までも知り合いだったり友人だと思っていた人の行動からグッタリしたことだった。

「一見支援しているかのように見えつつも、本当は自分が目立つことしか考えていない者」
「お金よりも友情が大切だ」は微妙に違う。「生活に困らない程度のカネがあってこそ、友情は成立する」が本当のところだ。
「人は一瞬の思いつきでモノを言う」

わたしも若い頃は、同じ理由で発動する行動をしてきた。
する側からされる側になる境界が、年齢なのか経験なのかその合わせ技なのかはわからないけれど、される側のほうが、マーケティング視点ではおもしろい。それをとことんマネタイズできる人が、教祖とかになるのだろう。



この本はノウハウと思想とその理由がごちゃまぜになっているけど、そこに圧倒的にリアルな背景(自己開示)が添えられていることで、今回はドキドキしすぎた。「圧倒的に人を信用できなくなる出来事のひとつやふたつ、いやもっと持っている」という人は実は多いはずなのに、世の中はまるでそんなことなどないように見えている。でもそうじゃないよね、実際。
この著者さんは、わりと律儀に絆を切っていく。おどろくほど律儀なやりかたで。このプロセスを見ていると、誠実すぎて苦しくなる。夏目漱石の「坊っちゃん」のよう。「ああ、この人は絶対に教祖になれない人だ」と思った。そのくらい、信用できすぎる人ということがわかってしまう。この本を読んで、わたしが同著者さんの本を手に取る理由がやっとわかった。はじめは、同業に近い感覚(わたしはウェブでクリックされるものとその性質をよく知る仕事をしていた)で共感していたと思っていたけど、その奥があった。


この著者さんが書かれているとおり、40歳にもなればそういう諦観のようなものがあってふつうではないかと思う。まだ30代の人も含め、この感覚がわかる人にこの本はたいへんおすすめです。


▼紙の本


Kindle