うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

カリコリせんとや生まれけむ 会田誠 著


会田誠展 天才でごめんなさい」を観て以来、ついつい気になってしまう芸術家さんのエッセイ。
基本的には作品同様、笑えるエッセイなんだろうけど、淋しさや空しさの表現がかなりいい。
小学校までのお子様の子育てをしている人は、読むといろいろ思うことがあると思う。「子育て失敗中」という言葉が何度か出てくる。奥様のエッセイが二度登場するのだけど、まるで自分のことのように身につまされる気持ちにさせる。口語と文語の配分がいい。
このご夫婦の社会感覚は、格段にちゃんとしているように見える。幻想に逃げられないのが芸術家なのかもしれない。
いや実際大変だろこの状況……と思う話がたくさん出てくるのだけど、笑いとばすでもなくがっちり受け止めて諦観してる。


気持ちのアップダウンの観察もとても冷静で

(虫の話から)
その様子を30分は見ていただろうか。どうも最近僕の心の調子は悪いらしいのだが、その愚鈍な食べっぷりはかなりのヒーリング効果があった。

なんて表現も出てくる。



会田さんは芸術大学の学生たちと交流しながら、過去の自分の感情を忘れずに行ったり来たりする。
母校が出てきたせいもあり、そこだけ妙に生々しく読む感じになった。そういえばわたしが大学生の頃は、村上隆さんが学生たちと一緒にいろいろなことをしていた。会田さんは「学生の頃のあの苦しい感情をなかったことにしない」という真面目さが、作品になるとああいうふうになると思うと興味深い。
学生に厳しいことを言った後に猛烈に気分が悪くなったときの記述などは、胸に来る。同じ状況でなくてもわかるものがある。「厳しいことを言いたくはないが」と言ってしまった時点で、かなり長い不機嫌が約束される、あの感じ。



コンプレックスの抱え方もすごい。
「球技はあってもいい。その代わりラグビー一つに統一しろ。」と言われても、は? って感じだと思うのですが、この結論に至るまでの説明を読むと笑いながら納得してしまう。すさまじい妄想力。



知人の日記を読んでいるような気持ちにさせる文章は、お人柄だろうな。
おおむね笑えるのに胸の痛むエッセイでした。


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