うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

裁判長!これで執行猶予は甘くないすか 北尾トロ 著

裁判長!ここは懲役4年でどうすか」の続編本。先に呼んだ本をきっかけに、わたしも傍聴をするようになってしまいまして(とはいえまだ20件弱なのですけれども)、1年をあけてこの続編を読んでみたら、著者さんとの意識の向けどころの違いも感じられておもしろかった。
こういう経験モノの本は、読んでおもしろいと思ったら、やっぱり行ってみたらいい。
その上で人が書いてくれたものを読むと、共感するところは共感するし、「この人の感動ポイントは、ここかぁ」などと思ったりもする。



印象に残った、共感したところを引用紹介します。

<74ページより(その章の結びで)>
こういう主張をまじめな顔で展開する弁護人は何を考えているのだろうか。かといって、誰かが引き受けなければ裁判にはならないわけで……。つらいところだ。

レイプ事件なのだけど、被告人は女性にリードしてもらわないとできないような人だという。真性包茎だからというのだが、そこのところの説得力はわたしにはわからない。これは一例なのだけど、とにかくこういう「あからさまに苦しい言い訳を軸に一定時間話さなければいけないっぽい仕事」というのが本当にいっぱいある。わたしはこんなとき、だから仕事なんだよなと、そんな思いで過ごします。

<96ページより (愛犬家殺人事件の共犯者案件の結びで)>
傍聴していて思ったのは、裁判員制度が始まったとき、こんな事件を担当することになったら困るだろうということ。物証は何もないのに「たぶんこうだったんだろう」で人の生死を左右する決断が下せるのか、大いに疑問だ。

裁判員制度で行われた放火事件の判決を傍聴したことがあるのだけど、裁判長の左右に10人くらい並んでいる人たちの表情がとてもつらそうで、傍聴する側から見ると複雑なものだ。
自身の生活のみじめさを嘆いて自室に火をつけたおじいさん(被告人)を、まったく同じくらいの年齢の老紳士が裁判員としてつらそうな表情で見ている。20代の女性は自分の祖父以上の年齢の人が「生活保護を受けたくない(意地がある)。でもふとみじめな気持ちになって」という衝動的な行動事件を裁く。
この制度は、「歎異抄」を読んでじゅうぶん理解したらどうぞとか、そういう宗教心のようなものがないと、国民に強いるのはつらかろう。というのが正直な感想。
わたしが思うのは刺激が強いとかPTSDとは別の問題。罪を裁いた後に、その人にも仏性があるんだ(「いはんや悪人をや」)って、信じられなきゃ裁けない。ゲームのように裁いたら、それはそれで問題だ。まずは僧侶からとか、そういう段取りじゃだめなんだろうか。

<第10幕 スジの通る理屈、通らない理屈 より>
(台詞がおもしろかったので、間の経緯はわたしが要約します。そのスジの方の案件です。いずれも被告人のことば)
「カチコミするのにチャカを使ったのは、バランス取らなきゃいけないからですよ。相手が2発撃ち込んできた。それに対してわかりやすく返すには、同じくチャカでやり返すことで、それが自分たちのバランスなんです。」
「フロントガラスを狙えば、あとで何発かわかると思いましたんで」
「ハジいた弾が民家に入らないよう、細心の注意はしたつもりです」
「ええ、目的はバランスなんで」
「で、2発撃ったんですが、そこでフロントガラスが崩れ落ちまして。最初の2発は座席に弾がめりこんでますから、3発目はナンバープレートを撃つことにし、銃口を下げました」

(筆者)カタギの人を巻き込んじゃいけない。非常時にもヤクザの掟を忘れない、ニクい心遣いじゃないか。

その世界の「バランスを取るための襲撃」を学ぶのに、こんなに短い文章で理解できるものはなかなかない。もう、事実なんてどうでもよいディテールの話になっている。大麻の栽培のディテール(おいしく育てるのって、むずかしいのね……)が勉強になったこともあった。

<179ページより(取調べに問題があったと思われる案件での弁護士の詰め方への感想)>
う〜ん、小気味いい。知りたいことを過不足なく尋ねてくれるね。

わたしは、傍聴にハマる要素があるとしたら、まさにここです。けっこうあるんです。さっと質問して答えたら無職と記載されたとか住所不定と記載されたとか。左右に立っている人(検察官と弁護士)の勧善懲悪がシャープなラリーで行ったり来たりするものに引き込まれる。



(以下は「傍聴」というものについての個人的な感想)
傍聴をしていると同時に自分の頭や感情が動くのだけど、先日ヨガ友が「行きたい」というので連れて行ったら「本当にドラマみたい」といっていて、自分の主観が動くのが刺激だったようだ。わたしもはじめはそうだったのだけど、最近は「頭が動く」案件をよく選ぶ。電子モノがいちいち漢字に翻訳されているのを、また頭の中で電子用語に戻す。誤差の単位になるまで分解して抜け穴を見つけるやりかたから、事業の規模を逆算してみたり。
「わいせつ電磁的記録記録媒体優勝配布目的所持」(「記録」が連続しているのはコピペミスではありません)という案件名を見てダウンロードものだろうと思い、どんな売り方をしようとして見つかったのだろうと傍聴してみたら、意外とアナログなDVD媒体でのやりとりだったりして、肩透かしを食らうこともある。
用語という点でいうと、強姦でも強姦未遂でもない段階は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為」という件名で、ふたを開けてみたら「大人のスカートめくり」だったりする。膝カックンです。


ITにしてもわいせつにしても、「裁判所の単語」を用いて記載されて語られる。それを自分のなかで同時翻訳する。日本語同士の翻訳。コミュニケーション能力、語学力、ファシリテーション能力を高めたい人に、傍聴はおすすめの現場です。

▼参考(ちょこっと書いたことがある傍聴記/重いものは書けません)
傍聴ログ01 覚醒剤取締役法違反案件 判決
傍聴ログ02 覚醒剤取締役法違反案件 新件(所持と栽培)
傍聴ログ03 覚醒剤取締役法違反案件 新件(4年ブランクの再犯)
傍聴ログ04 電子計算機使用詐欺罪