うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

リアル国際ロマンス詐欺師・Rさんとのこと

先日、ことしの2月に1ヶ月間リシケシで過ごした友人がうちへ遊びに来てくれました。そのときに「うちこさんはたった2週間の旅の間に、いろんなことしてる!」と言われたのですが、彼女にそのいきさつを話すことで、どう話せば今回の旅の事情が伝わるかをやっと少し整理できました。わたしはライトな結婚詐欺に遭っていたのです。調べてみたら、いまこういうのは国際ロマンス詐欺というのだそう。


結婚の話はまったくしなかったのですが、わたしがもっと若ければされていたかもしれません。先方は途中までわたしを年下と思ってくれていたそうで(ありがとう!)でも実際はわたしが8歳上であったために、途中からタカられる感じになっていきました。

お互いのくわしい話をする前にいろいろなところへ連れて行ってもらってしまったので、旅の終盤になってから食事代やバイクのチューブ交換代(ほんとだったのかな…)を支払いました。そうしたらその後、思いっきり日本円で万単位の額を貸して欲しいと言われるようになり…。「手持ちのルピーでしかお金は払わない。金額として日本円で万単位をいま払うなんてありえない」と伝える問答がありました。

 

そんなこんなで詐欺のほうはマイルドなカツアゲ程度で終わったのと、その人のことを悪く思えていないのでイニシャルで書きます。その人はRさんといいます。Rさんからは、リシケシにいる間にいろいろな話を聞かせてもらいました。インドのお見合い結婚のよくできたところ、ダウリーを避けるための現実なども聞かせてもらいました。

なかでも「恋愛感情よりも先に尊敬の関係が確立した形の結婚のほうが、そりゃあ成功しやすいさ」というインド式婚姻の説明がおもしろく、敬意がわいてしまいました。お互いずっと「さん」付けで呼び合っていました。
ジャパネットたかた社長並に話のリズムがよかったのも、10万、5万と額を下げつつ借金交渉をしてきたのもRさんで、ラクシュマンジュラの雑貨屋の前で知り合いました。洋服屋さんを運営しながら宝石を取り扱う仕事をしているらしいのだけど、本当のところはわかりません。天然石とチャクラの話をしていたので、仕事については「ああ営業か」と思ってあまり真剣に聞いていませんでした。

 

わたしは、たとえばRさんから過去に日本へ来たことがあるという話をされたとき「写真かパスポートを見せて」というような、話の裏をとるようなことはせず、それでも細かくおかしな点は記憶し、見えないところで作られた飲み物は飲まないように気をつけていました。
はじめから気前もお店のチョイスもほどよくて、わたしにお酒を飲ませて酔わせようとするところまでのストーリー運びは完璧でした。でも、わたしはお酒に酔わなかった。2ヶ月くらいほとんどお酒を飲まずにインドへ行ったのですが、だからといってすぐに飲めなくなるわけでもなく、Rさんの予想以上にわたしが酔っ払わなかったのでした。

 

 

詐欺に遭うことと普通の出会いの境界がわからない

国際ロマンス詐欺だったと感じる理由は、Rさんが頻繁に使った「Long Relationship」というフレーズがそれではないかと思うからです。わたしは旅行の後も連絡を取り合いたいという意味だと思っていたのだけど、日本の住まいは賃貸か持ち家かと聞かれ、賃貸と聞いてあからさまにガッカリされたので、今となればそうではないかと思います。

お互いの年齢を知ってからは、Rさんから先の話をされるたびに「家族が欲しいなら、若い女性を探さないと」とわたしが近所のおばさんモードの、設定のおかしなコントのような関係が続きました。会話には恋人同士のようなフレーズもあったのですが、英語なのでピンときません。「Hello Darling」とメッセージが届くと「フィンガー5か!」と反応してしまう。

それ以上に、わたしたちは物価の話や社会システムの違いをたくさん話しました。最後は「この町で買えるいちばん高いワインを飲みたい(Rさん)」「それは、いくら?」「5000ルピー(8500円くらい)する」「そっかー。じゃあ最後だし、贅沢しますか」となり、結局二人ともビールしか飲まなかったのだけど、宴を開催しました。そしてわたしの頭は平常のまま、Rさんが先に酔っ払ってしまいました。Rさんがいつもと違う少し強い口調になったタイミングで、今日はこの辺でといって帰ってきたのがリアルでの最後の会話でした。

わたしがビールにしたのは、直接瓶から飲むものにしたかったからです。グラスに入れて飲むことになったら途中で何を入れられるかわからない。最後になにか仕掛けてくるかもしれないと疑っていました。

 

 

あちこちへ行った

滝や山へ連れて行ってくれたり、パプラッシーや酒屋を見せてくれたり、遠くの書店まで行って買い物が終わるまで外で待っていてくれたのはRさんでした。

 

スクーターで街や山を散策したり、ジェラート並に感動するパプラッシーを味わったり・・・っていま思い返すと完全にローマの休日メソッドやないかーい! と思うけれど、まあなにせ暑いのでね。毎日40度。当時は冷たいものをエサに誘われたら迷わずついていく単純さでした。
はじめて行動を共にしたのは、リシケシに到着して数日後のことでした。宿も稽古場も状況がつかめたし、さーて「カフェ・おかえり」へ行くぞというときに、この暑いなかタポヴァン(川の反対側の町)まで歩くなんて! といってブーンと店まで送ってくださった。

その後、連絡先を教えていなかったけれど小さな町なので3日間に一回くらいの頻度で偶然かのように会いました。Rさんはわたしが滞在していたゲストハウスのすぐ裏に住んでいたので、あらこんなに近くに住んでたの? という感じで、近所の人と意気投合したつもりでいました。

 

 

シヴァ派・シャクティ信仰の人の口説き文句がおもしろかった

Rさんとの会話は、雑談しながらお互いを社交辞令的に褒めあっているだけの軽い掛け合いのはずが、途中から話がおかしくなっていく。その展開が独特でした。「うーん。君はぼくのシャクティだ」という口説き文句のパワー・ワードっぷりといったらすごいのです。

ふつうの昭和女だったら「なにこれ? ずいぶん派手な阿修羅男爵ね」と言いそうな画像(半身シヴァ・半身パールヴァティ)の説明をしながら、君は僕の半分だと言いながら手を握ってくる。

(▼あとで本人から画像をもらいました)

f:id:uchikoyoga:20190701225552j:plain

(左:シヴァ/右:パールヴァティ

リシケシにはセクハラっぽいことをしてくる人がたくさんいるので手を握られるなどのことは置いておくとして、コトの運びがおもしろい。いまからフォーク・ダンスを始めるのですか?(片手は握り、片手は肩へ)という体勢でトークを続けようとする。その前に、暑いわ!

「いいじゃ、ないの~」「んダメよ~、ダメダメ!」みたいな会話を英語でしてるなぁ今…と思う瞬間が何度かありました。あれは、なんだったんだろう…。

 

 

カジュラーホー近くの出身で、筋金入り

Rさんはカジュラーホーという有名な遺跡の近くが出身地だそうで、タントラ・ヨーガの話がとにかく大好き。遺跡にあるいろんな体位の写真をたくさんスマホに保存していました。(「カジュラーホー タントラ」で画像検索すると出てくるような画像です)

遺跡の説明をしながら「今度この体位をいっしょにやろう。これはセックスではない」と言いだしたときには「えーと…。いまのは笑っていいところでしょうか。あまりに強引すぎておもしろいのですが」と尋ねてしまいました。笑っていいとのことでした。

暑いから触れたくないと言うと「お。おおぅ…。それは真実だ!」と笑いながら流し、ちっともめげない。トンデモおもしろセクハラおじさんの史跡大好きバージョン。展開がいちいち想像の斜め上を行きすぎで、かなわないと思いました。

 

 

いまはジゴロのセミプロ

Rさんはおしゃれで、いつもデザインのよいシャツを着ていました。君のそのシャツいいね、生地を見せてと言って近づいてきたのがはじまりでした。数日後にわたしが毎日シャツを手洗いしていると話したら、ならば一緒に僕の行っているクリーニング屋に出しに行こうと言われ、ひとつひとつの話題をすべて口説きに持っていくきめ細やかさ。もっとお酒が強くなれば、Rさんはリアル国際ロマンス詐欺のプロになれそう。
毎朝森でマラソンと瞑想をしていると言っていたのが本当かどうかはさておき、Rさんは細マッチョで、ほかのインド人はたいがいそうであるように脚の長い人でした。顔はスーパーマリオにそっくりで、ヒゲの幅と厚みが完璧にマリオでした。こんなに脚の長いスーパーマリオにスピリチュアル・トークで迫られたら、堕ちておくほうがきっと人生は楽しかろうと思いました。

 

 

OSHO読者の話術はすごい

シヴァ派・シャクティ信仰について、Rさんの前では知らないふりをしていたけれど実は知っていたので、タントリックな口説きの手順にはあまり驚きませんでした。ただそれを最終的に金銭サポート話に落とし込むときの文脈の構築がすごかった。話のリズムと展開の無理さがおもしろい…。

反論を挟もうとすると一拍置かれるのだけど、オーケーオーケーと言いながらそのあとつらつらつらーーーっとまた包むようなトーンでくる。このとめどない大きな波のような感じ、どこかで見覚え・聞き覚えがあります。
なにかのときに「あなたは本当に話がうまい」といったら、オショー(バグワン・シュリ・ラジニーシ)の本が好きで、読んでいるとのこと。意外とあっさり元ネタを公開してくれました。それまではアメリカで捕まった人というイメージだったOSHOに、がぜん興味がわきました。
日本に帰ったらOSHOの本を読もう! と思って帰って来ました。(読んだら、ああああーーーこれやぁあああああーーーー元ネタ、めっけたでぇえええーとなりました)

 

 

Rさんには、日本語サポートをする別の日本人がいた

ときどきRさんの携帯にメッセージが届くと表示される文字列に、Sではじまる日本人女性の名前がありました。はじめは同時進行で日本人に複数あたっているのだろうと推測していたのですが、Sさんからも情報を得ながら親日っぷりを演出していたのかもしれません。
Rさんは終盤になると金額をインド・ルピーやUSドルでなく日本円で Ten-Man (10万円)と言うようになり、運転しながら尾崎豊の「I Love You」を歌いだしたときは、微妙すぎる選曲で爆笑しました。本人もその微妙さは理解しているらしく、ウケてうれしそうでした。この歌は日本人の男性の友人から教わったとのこと。

「もぉ~、このバイク、盗んだやつなんじゃないの?」なんて、こちらもさらにボケたい気持ちが溢れましたが、ひとりで抱えて帰ってきました。こういうとき、わたしは胸がすごく苦しくなります。

 

 

住所を聞かれたところで終了

インドにいる間に住所を聞かれたことが何度かあったのですが、暑くてド忘れしたということにしていました。日本へ帰ってきてから「君に贈るパンジャビ・ドレスを買ったから住所を教えて欲しい」と連絡がきてからは返事をしていません。Rさんよ、わたしはインド製品の服に全く興味がないって、シャツの話の流れで言ったよね。何度も言ったよね。

これは国際ロマンス詐欺の手法で「箱もの」という展開らしいです。住所を教えると、送ったのだけど手違いで届かないとか、税関でつかまったから追加料金が必要になったとかで、立替を依頼される展開などが待っているそうです。教えてないので本当のところはわかりません。

 

この話を聞いた友人は「旅先で知り合った人からあとでお金を無心されるなんてこと、あるんだ…」と驚いていましたが、わたしが「あとで無心されることは、いままでもあったよ。母親と一緒に旅をしていると、その問い合わせは母親のほうへ行くってだけで…」と言ったら爆笑されました。お金の無心自体は過去にもありました。
今回の旅での学びは、わたしも金づるとして期待されるほど歳をとったということです。

 

 

結婚詐欺と恋愛詐欺と国際ロマンス詐欺

このたびのことで「詐欺」の文字列を含むワードをたくさん知りました。これまで結婚詐欺という言葉しか知りませんでしたが、恋愛詐欺というのもあるんですね。でも恋愛って、そもそもはじめはお互いどこか詐欺的だったりしないでしょうか。

わたしが早めに姉さんモードへ転じたのは、年齢詐称をしているかのような罪悪感からです。インドはものすごく乾燥しているので、湿度の高い国から来た日本人は異様に若く見られます。インドは毎回これがあるので困ります。

今回のようなケースは、広いくくりの中で「国際ロマンス詐欺」に入りそうです。Rさんはべつに日本国籍が欲しいわけではないようでしたが、親族のしがらみから抜けたい願望があるようでした。

 

 

・・・にしても、ロマンスって!

インドは猛烈に暑いため(毎日40度越え)わたしの脳内で広瀬香美の歌声が流れることは一度もなかったのですが、厳密にネーミングを探るならこんなタイトルが思い浮かびます。わたしはインドでいまひとつ甘い気持ちが起こらないんだよな…。なんでだろ。

この感じを映像化するなら・・・

  • 国際ロマンス詐欺~インド・タントラ編~  ←ドキュメンタリー風
  • タントリック詐欺シャクティ  ←人情刑事ドラマ風
  • ロマンスの神様 ~君は僕のシャクティ  ←映画化決定!

こんなことがあっていいのか、ということが起こるのがインド。それは、これまでの何度かの旅でわかっていたつもりでした。それにしても、なんでこんなことがありえるのだろう。自分に起こったことなのに、非日常すぎて思い出すたびにいろんな意味でクラクラする。

 


帰国してからしばらく、ヨガクラスで会った人から「ブログの詐欺の話がおもしろいのですが…」と何度か言われたのですが、実は順序立てて話すとこんなしっかりとした出来事があったのでした。
そしてこのたび7年ぶりにリシケシへ行ってみて、10年前とは別の危険を感じました。いろいろ巧妙化していると感じました。密室で現地人と自分だけという状況を避けること、別室で作られたものを一人で食べない。そんな基本的なことも、もう少し長く居たらうっかり忘れてしまいそうでした。ほんとにほんとに、暑かったの…。

そんなこんなで今回のインド旅行記の最終フェーズは、いままでにない濃さになります。

 


リシケシは、とても楽しくて素敵なところです。

f:id:uchikoyoga:20190512174029j:plain