うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

誰も書かなかった整体学 ― 現代を、生き抜くための整体論 宮川眞人 著


すばらしくよい内容の本でした。現代の身体論として、「体運動」「腰椎4、5番の弾力」「体を内に絞る力」に主軸を置いた思想書。
整体の本って、中身は密教スタイルでないと伝えようのないものだから、本来は「読みやすい読みにくい」で語られてはいけなくて、やはりキモは思想ではないかと思います。なにかとソリューションを求めがちなアメリカン体質になってしまった自身について反省気味の人で、この本がおもしろく読めたという人が増えるといいなぁ。
無理にまとめようとせず、先によいと思ったところをリストしますね。


<ここがいい>

  • 身体宇宙はチャクラというインドの飛び道具を使わないと仕様書のような書き方がむずかしいのだけど、それに果敢にチャレンジしている。
  • チャレンジというのは、言い切り文体のリスクも含めて。本当はそんなに単純じゃないところも、大切な「弾力」の話がわかる人向けに、ある意味割り切っている。
  • タイトルが「誰も書かなかった」とありますが、野口先生が説いていたけどこういう形の現代版では誰も書かなかった、ということ。頻出する「体運動」という表現にオマージュを感じます。
  • 野口先生といえば「体癖」「愉気」が有名だけど、「潜在意識と体運動の構造の関係」の存在を説き、かつ体系立てたことが偉大なのであって、アウトプットの「体癖」の分類の話に気をとられるのはナンセンスという気概が全体を通して感じられて、そこがいい。この本では「体運動の連動」と表現されています。

誰だって、「自分の未来」が最大の関心事。そこに向かう軸で身体の話を展開しようと思えば、ある程度書く技量があればいくらでもウケそうな路線で書けます。まあ、釣りですよね。だから巷に「骨盤ヨガ」があふれる。
「潜在意識と体運動の構造の "関係"」そのものに向き合うことと、「アウトプットの身体現象に紐付けてああだこうだ言うところまで」というのでは、「ただの寄り目」と「瞑想」くらいの違いがあります。ただ「寄り目」にも目の運動効果がありますから、「やらないよりはいい」という効用がある。いちいちその奥行きの違いを声高には言いませんわな、というのが日本のアーユルヴェーダの現状。とわたしは思っています。



冒頭に「なにかとソリューションを求めがちなアメリカン体質」という表現を使ったのは、「わたしは、わたしはわたしは何種?!?!」という占い感覚よりも深い話が書かれていますよ、という意味で書きました。(べつにアメリカじゃなくてもよかったのだけど)
現代の世相とからめた身体観は、片山洋次郎さんの本がかなりおもしろいですが、「仕様書」っぽい土台で展開するこの著者さんの書き方も好きです。引用と感想の組み合わせが「細かすぎる」感じになりますが、興味のあるかたは……、ということで、何箇所か印象に残ったところを紹介しますね。

<37ページ 「丹田」という概念、体の軸「正中線」という東洋的身体観の必要性 より>
 丹田丹田といわれると、腹の中を硬くする人が大半ですが、実は、これは腹を萎縮させる行為なのです。下腹に力を入れるということは、本当は硬くするのではなく、膨らましてゆく行為なのです。その時点で腰椎4、5番と腸骨の縁に力が入ってゆき、腰の前弯の動きが必要になるのですが、これだけで終わりではなく、最終的には腰と背中を真っ直ぐにするような感じの締めの力が必要となってくるのです。



(上記引用に関連して)
<84ページ 腹直筋のラインの変化 より>
言葉で上、中、下丹田というと、あたかもポイントとしてあるかのようですが、本当はポイントとしてあるかのようですが、本当はポイントとして<単独>に存在しているわけではなく、体の正中線の状態や腹直筋の状態、ひいてはその腹直筋の状態を作っている腰の状態が単にその場所に反映しているだけなのです。

わたしは何年もこの認識で間違ったヨガを続け、その後ゆっくりと気づきを深めていく過程をたどりました。これは文字で説明するのがとても難しいところ。「必要悪」というとちょっと違いますが、必要な勘違いというか、そういう側面もあると思います。
ヨガで言うと、ムーラバンダはウディヤーナバンダに吸収される要素を多分に持っているけど、分けて語るときは、たとえばこういう動きのとき、というのがあります。「胸式」「腹式」を言葉の違いでとらえて説明しようと思うと無理であることとも似ています。そういう意味で「腰と背中を真っ直ぐにするような感じの締めの力」という表現はほんとそのまんまだ、感じました。


<45ページ 糖尿病と腸骨支持点 より>
 糖尿病の人は、胸椎7、8、10番の右側に特徴的な硬直を持っていて、これは、もともと肝臓の負担から始まっていることを意味しています。右側の腸骨支持点の改善を行なわないと、最終的には糖尿病の傾向はなくなりません。


(中略)


糖尿病の人はとても頑固です。悪い意味で頑固になります。他人の話を聞きません。背中が硬くなると、心に柔軟性がなくなり、性格に柔らかさがなくなってくるのです。


(中略)


 視力がなくなるという問題も、腸骨支持点の硬直により背骨全体が硬直し、後頭部の付け根の脳の血行に関係する場所を硬直させて起こるものなのです。本当はこうなると頭の中の血管を切っても不思議はないのですが、目というものを犠牲にして、そうならないように守っているとも考えられるのです。

わたしはめきめき視力が下がっているので、デジタル機器の存在をネット社会ごとふくめて考えてみたりする。目の使い方の変化から感情の傾向も変化すると思っているので、ここは興味深かった。


<61ページ 腰の捻じれ より>
過食やアルコールの飲みすぎが、体の捻じれを固定化させる大きな原因であり、また、その改善を遅らす要因となることも付け加えておきましょう。
 また、肝臓系統の疲労によって、腰の捻じれがいつまでも取れない状態の女性が多いのですが、特徴的に胸椎8、9番の右側が常に硬直しています。

このあと、「現代女性の多くの体がこの傾向を持っている」「職場のストレス」という流れで続きが書かれています。
胸椎8、9番の右側の問題は、わたしも2009年からじーっと観察を続けているのですが(参考)、いまは「ストレス」と絡めて語るのをやめています。本来「子育て」でその念力的な能力が発揮され、重宝されるべきであった女性という性に、男性の重宝フラグをあてはめていることによるものではないか、という仮説を立てています。そして、その重宝フラグの発生原理は「女性が社会進出している比率を数字上で表現すること」という、本質とは別の背景のうえに成り立っているので、そこまで含めて考えると、これは男だとか女だとかいう区別がなくなってきます。世の男女が、みんなでよい幻想を共有するために殺しあっちゃってるように見えるのです。


<77ページ 腹について より>
 腹部の硬直というのは、左右の腹直筋のラインの縁によく現れますが、本質的には腸腰筋のバランスが腹直筋に反映されているのだと思います。
 そして、その腹部の硬直の固定化は、股関節の内側の萎縮・硬直を生んでゆくのです。これは腸腰筋が股関節の内側(小転子)に付着していることに関連があるのだと思います。

立位で反れないことや、脚を伸ばした状態のマツヤアーサナと関連する話。


<80ページ 腹について より>
 背骨のやや左よりに、大動脈という太い血管が通っています。
 ですから、通常は腹の左側に手をやると脈を大きく感じられるのですが、これが右側に大きく感じられるというのは体調不良です。

ここはヨガで動きまくった後に触ってみてみて。コマネチのちょっと上のとこ(腰骨の谷)に指をねじ込むとおもしろいほどよくわかります。ここを触って観察するのが趣味だった頃、「このドクドクするの、なにー?」と、ナースの生徒さんに聞いたら「腹部大動脈」と教えてくれました。


<113ページ 膝が痛い より>
 太ももの前が伸びなくなったとき、それは腰の最大限の硬直と、肋骨の下がりを意味しています。つまり、正座というのは、太ももの前をそれだけで伸ばしている形なのですから、非常に意味深い形といえます。後述する体操の中に、正しく正座した状態で後ろに寝る形がありますが、これは腰の反りを作り、肋骨を上げる体操になるのです。さらに、この状態で両手をバンザイすれば完成型です。

ここは最も興味深かったです。ヨガのポーズの中で「できませんっ」と代案を提示する前から言われやすいものがいくつかあるなか、これはかなり上位にあり、かつその返事が速い。膝のお皿のすぐ上って、おもしろい部位なんだよなー。感情との連動度が高いのだろうな。


<160ページ 側面を伸ばす体操 より>
 簡単にいうと、足先が外に向く人は腰の硬直している人です。硬直している腰と同じ側の足先は外に向きます。逆に、腰に力がない人は足先が内に入ってしまいます。
 つまり、「がにまた」でユサユサ歩いている人は、腰の硬直している人で、「うちまた」でちょこちょこ歩いている人は、腰に力のない人なのです。

「簡単にいうと」には前段の流れがありますので、気になる人は買って読みましょうね。としたうえで。
ヨガで柔軟に体が動くようになった人でも、歩き方の印象って、あまり変わらないんですよね。各ポイントの角度だけは残っているような、そんな感じ。



久々に、感想コメント書きながらついニヤニヤしてしまう本に出会いましたよ。
身体を小宇宙ととらえて仕組みでモノを語る本が好き、という人は、すごく楽しめるでしょう。


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