うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

雁 森鴎外 著

人間関係のほんの少しの範囲しか書いていないのに、ここまでときめく話があるだろうか。
複雑な感情も描いているのに、それが人間の愚かでかわいらしい範囲を絶対に超えてこない。あくまで人間らしいものとして見守る。雁のほかにも鳥が出てきて、わたしには鳥かごの鳥たちが囲われものの親子にも見えたりした。

この物語はどの人物の視点から見ても人間らしい構成になっていて、新しいやさしさや美しさを見せてもらった、そんな気持ちになりました。

 

よくある感情も森鴎外の書き方で読まされると何かが圧倒的に違う。ほかの男性に想いを寄せて日に日に美しくなっていく若い妾を見ながら、ワシが情緒を育てたらこんなにも美しくなって……と悦に入る金持ち中年男性の気持ちも、この立場なら当然そう思うものと受け取れる。DVをする人間になるかと思いきや、そこで当たり前に葛藤する男性の気持ちの動きの切り替わり方は、どんな人間にもあるべき徳性の力。これを平常のトーンで書ける人はなかなかいない。
他人を疎ましく思う気持ちや悔やしみの感情は名描写だらけ。この物語を読むと、感情は社会が作るものだということが、ものすごくよくわかる。

 


そしてわたしの感想は、ここから急に乙女モードに入りますよ。
そう! ときめきって、こういうこと!
ときめきトゥナイトならぬ、ときめきデイタイムが続く♡見事にすべてがデイタイム
そして、ときめきを万引きに喩える説明を読んだときには、もうこの世のすべての出来ごころを許したくなる。座布団10枚!!!  山田くーん、この部屋にある座布団ぜーんぶ森鴎外さんにあげて!!! 


よくわからない外来語がアルファベットで挟まれてちょっと J-POP な感じなのも、ずっと気になりつつ最後にそんなことはどうでもよくなるし、最後の最後の一行まで粋の極み。
読了直後に、これ絶対映画化したくなるよな……と思ったらやっぱりされていて、お玉が高峰秀子版と若尾文子版がある。同時代やん! いやぁ、これはどうにも映像化したくなるよね。あらゆるキャストで撮りたくなる。なるよなー。