ここしばらくの読書で、古い言葉を覚えました。
なんだかおもしろくて調べているうちに愛着がわいて使いたくなってくるのですが、使う場がありません。
最近印象に残ったものを3つご紹介します。
ミーチャンハーチャン
これはサマセット・モーム「人間の絆」の上巻に出てきました。
特定のターゲットを示す言葉です。こんなふうに使います。
ミーチャンハーチャン向きの安小説本
(上巻 580ページ)
これが「ミーハー」の元になった言葉であることを知り、「ミーハー」ってそんなに昔からあった言葉なんだ! と驚きました。訳者の解説が1960年なので、その頃には小説の日本語訳に使われるくらいの日本語だったということです。
中華料理屋のランチで、女性へ向けて「サービスのチャーハンはつけなくていいですか? それとも半分つけときますか?」という意味かと視覚的に想像したのですが、違いました。
わたしはあまり本を読まずに大人になったので、「ミーハー」という単語は森高千里さんによる造語と思っていました。「お嬢様(=堅実)」の対義語のようなものと思っていました。森高さんはいろいろ新しい概念を提案するイノベーティブな人だったので、そう思っていました。
「モリタカ」って、 「あいみょん」みたいなところがあったよなぁと、30年たってもあまり古く感じないジャケットを見ながら感慨に浸ってみたりして。
七里ケッパイ
これもサマセット・モーム「人間の絆」(下巻)に出てきました。わたしの読んだ新潮文庫の本は句読点の多いレトロな訳文で、「七里ケッパイ」はこんなふうに、女性のセリフの中で出てきました。
もうこれっきり、馬鹿馬鹿しい生活は、七里ケッパイだわ
(下巻521ページ)
どうやら七里結界という仏教用語を口語の日常使いにするとこうなるようで、「きらって近づけないこと」という意味だそうです。
「コロナウイルス七里結界」みたいな感じで使うと正しいのでしょうか。
効験いやちこ
佐保田鶴治先生訳のヨーガの本は、もうこれ系のネタの宝庫。なかでも好きなやつをひとつ紹介するなら「いやちこ」です。
「いやちこ」は続・ヨーガ根本教典のゲーランダ・サンヒター2章7節、シッダーサナの説明の訳に出てきます。このように。
この効験いやちこなアーサナはシッダとよばれている。
(続・ヨーガ根本教典 45ページ)
辞書で調べてみると、こうです。
- 効験:しるし。ききめ。効果。
- いやちこ:あらたかなこと。 はなはだ明らかであること。
「霊験あらたか」と同じようなリズム感で薬事法にひっかからないぎりぎりのラインを狙ってみたような訳文になっていて、異様なおもしろみ。なんかいま読むと煙に巻いた感じに見えるのがおもしろい。
ここ数年ヨーガの教典写経の横に佐保田先生の訳を書き添えてみる、というのをやっているのですが、こういう爆発的におもしろい日本語が少なくない頻度で見つかります。よくここにこんな日本語あてたね! というおもしろみにハマる。
「いやちこ」って!!! 何度読んでもニヤついてしまう。
「霊験あらたか 効験いやちこ 強力わかもと」のリズムで唱えると覚えやすいですよ! 使う場面はないのだけど、このワンフレーズがもはやシャクティ・マントラ。
「コロナウイルスの予防にはスートラ・ネティが効験いやちこです」と書いたら刺されるんだろうか。
わたしは本を読んでいても、こんなふうにいちいち脱線してしまいます。集中力がないわけでもないと思うのだけど、脱線ついでにさらに脱線する。それなのにちゃんと戻ってくるところがむしろ奇跡。毎日が奇跡の連続です。