うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

パティ・ボイド自伝 ワンダフル・トゥディ(インドヨガ時代編)

先月「ジョージ・ハリスン自伝 ― I・ME・MINE」を紹介しましたが、この本はそれを「裏側からも、見てみよう」という気持ちで図書館で借りて読んでみたもの。パティ・ボイドさんを知らない人のために少し説明をすると、この人はとびっきりかわいいモデルさんで、ジョージ・ハリスンの最初の奥さんです。そのあと、エリック・クラプトンと結婚したため、いわゆるロックの世界では「名曲(「いとしのレイラ」などなど……)を生み出したミューズ」的な存在として語られることが多い女性です。
この略奪婚話はあまりにも有名で、多くの方が書かれていますから、ここでは割愛します。


この本は、いわゆる「暴露本」的な取り扱いをされているものなのですが、ヨギのうちこにとっては、1968年にビートルズがリシケシで過ごした「インド時代」の状況が描写されている、とても興味深い内容満載の本でした。
数回に分けて紹介していきますが、初回の今日は「ビートルズのインドヨガ時代」にフォーカスします。
このブログでも何度かビートルズとインドとマハリシのことについて書いていますので、興味のある人はこれらの記事も読んでみてください。


そのまえに、パティさんを「ただ可愛いだけの女の子でしょ」と思っていらっしゃるロック・ファン男子が多いと思うのでうちこなりに思ったことを書いておくと、「確かに、そのとおりです。でも、彼女はその目で見て、体験しているのです」というのがそのまんまの事実。たしかにクラプトンへ移行するその過程には「可愛いだけの女の子」なメンタルも感じられるのですが、確実にそれを後悔していらっしゃいます。そして年月を経て彼女から出てきた当時の様子の描写には、女性として「ああ、やっぱり。そういうことが、あったのね」と引き込まれるものがあります。

先に省略して紹介しておくと

偉大な師のもとで、瞑想の世界について学んできた。いろいろな憶測が飛び交ってはいたが、ジョージと私にとってマハリシは、やはり師匠だ。

(中略)

ジョージはさらに、ほかに女性がいて、それも私を傷つけた。インドで彼はクリシュナに感化されている。常に大勢の美女に囲まれている神の化身だ。それでクリシュナのような、愛人を大勢抱えたスピリチュアルな存在になりたいと思い始めたらしい。

こんな記述がある。スピリチュアルを言い訳に……というニュアンスには共感するばかりだ。よくぞ自分の言葉で語ってくれました、と思う。


このほかにも、○○を言い訳に……といった内容は多く、それはあまりにも興味深く、あまりにも正常な感覚です。
楽しみになってきたでしょう。
それではヨギによる抜粋、いきます。いきなりインド時代に突入するとわかりにくいので、すこし前の時代から引用紹介します。

<130ページ 第5章 ミセス・ハリスン より>
 キッチンで一緒に過ごすことは多かった。そこが家の中心だった。ジョージがテーブルの前に座り、やがて「マイ・スウィート・ロード」となった曲をギターで書いていたのを憶えている。ところが、いざ、これがシングル・リリースされてナンバー・ワンまで行くと、ジョージは告訴されてしまった。

(中略)

彼が自分で書いたのは間違いなかった。私はその様子をこの目で実際に見ていたのだ。けれどもジョージはメロディが完全にオリジナルだと証明するために、わざわざギター持参で出廷し、判事の前で演奏する羽目になった。結局、判決は「潜在意識における盗用」の罪で有罪。
以後、家の中でラジオをつけることがなくなった。

ジョージ・ハリスン自伝 ― I・ME・MINE」と併せて読んでみるとよりわかりやすいのだけど、ジョージが心の中の世界に入っていくきっかけは、やはりこの盗作訴訟事件だと思う。「潜在意識における盗用」といわれたら、そりゃそうなるでしょ。


そしてこの本ではこのあとジョージとラヴィ・シャンカールの出会いの記述へ進むのですが、シタールをまたいでラヴィに叱られたジョージのエピソードが、ジョージの自伝とまったく同じように書かれていました。あまりに同じような感じだったので、そこは割愛します。
続きいきましょう。

<166ページ 第6章 出会い より>
それまで私たちは、ドラッグは面白いものであり、意識を広げてくれる便利な道具だと考えていた。だが、ヘイト=アシュベリーで一気に目が覚めたのだ。あそこにいた人たちは社会から脱落し、路上で寝起きして、ありとあらゆるドラッグをやっていた。LSDの何倍も強いようなものも含めてだ。STPもそんな強烈なドラッグだったというのを、のちにジョージは "ママ"キャス・エリオットから学んでいる。あそこの住人にアーティスティックやクリエイティヴなところなど、これっぽっちもなかった。単なるアル中と同じ。どこにでもいる依存症患者だ。それを知ったジョージは、ドラッグ・カルチャーそのものに嫌気が差した。それでLSDをやめて瞑想に転じたわけだ。
 そういう意味では、マハリシの教えが絶妙なタイミングで私たちの人生に飛び込んできたと言っていい。

(中略)

 かくして私たちはバンガーにいた。すると、みんながTMの手ほどきを受け終えて、新しい生き方を発見できたと信じていた日曜の朝、電話が鳴った。そして慣れ親しんできた世界は終わりを告げることとなった。
 ブライアン・エプスタインが亡くなったのだ。

(中略)

生まれ変わりについて説く一方で、悲しみはブライアンの旅路をかえって妨げるとも教えてくれた。それを解放してやるには、彼のために喜び、笑い、幸せな気持ちでいなければならないとのことだった。

うちこはキャス・エリオットさんの音楽をよく聴くので(「It's Getting Better」が大好きです。アメリカのドラマ「LOST」のシーズン4で使われた曲です)、ママ・キャスさんについて書きたくなるところなのですが、そこはいったん置いておきます。
この記述で思うことは、ビートルズにとってブライアン・エプスタインは神であったのだ。ということ。彼の死を転機に、ビートルズの歴史が大きく変わっていく。


さていよいよここから、リシケシのマハリシ・マヘーシュ・アシュラム(通称「ビートルズ・アシュラム」)での状況記述です。
(うちこの跡地探索はこちら)。

<175ページ 第6章 出会い より>
 というわけで1968年2月、世界の半数近くのプレス関係者を引き連れて、私たちは聖地リシケシへと旅立った。(中略)そこでまずは、ジョージ、私、妹のジェニー、ジョン、シンシアという顔ぶれでデリーへ行き、数日後にポール、ジェーン、リンゴ、モーリンが合流した。

(中略)

 マハリシと長老たちとの挨拶を受けると私たちは早速、それぞれの部屋へと案内された。最低限の家具と粗末なベッドが二つあるだけのところで、初めはジョージと同室だったが、つい瞑想中に邪魔し合ってしまうので、別々の個室に移ることになった。ジョンとシンシアも最初は私たちの隣に二人でいたのだが、夫婦仲がうまくいっていなかった。ジョンは当時、オノ・ヨーコと出会ったばかりだったのだ。それで1週間ちょっとした頃に、ジョンも個室に変えてもらっている。私はシンシアがかわいそうでならなかった。ジョンのポストには、毎日のようにヨーコから「空を見上げて雲が見えれば、それはあなたに愛を届けている私」という類の便りが届いていたからだ。

シンシアは、ジョンの当時の奥さん。ジュリアンのママね。にしてもヨーコ、おそるべし。

<つづき。中略>
 アシュラムには60人ほどが来ていただろうか。(中略)例えば途中からドノヴァンが、マネージャーの"ジプシー・デイヴ"と加わっている。ドノヴァンとは数年前からの付き合いだった。ビートルズとレコーディングした経験があり、『イエロー・サブマリン』でもプレイしている。(中略)ビーチ・ボーイズのリード・シンガーであるマイク・ラヴも加わったし、女優のミア・ファローも、弟のジョニーと妹のプルーデンスを連れてやって来た。

ドノヴァンもビーチ・ボーイズも大好きなのでまた語りたくなっちゃうのですがそこはひとまず置いておいて、ミア・ファローさんはロマン・ポランスキーの「ローズマリーの赤ちゃん」の主演女優。
ロマン・ポランスキー奥さんだったシャロン・テート殺害事件を起こしたカルト指導者チャールズ・マンソンビートルズの「ホワイトアルバム」にメッセージを受けたとかいっているらしい。マハリシについてジョンが書いた「セクシー・セディー」ですらも、自分へのメッセージと受け取ってしまうマンソン、おそるべし。

<つづき。中略>
 一方でアシュラムでの生活をあまり楽しめなかった人もいた。プルーデンス・ファローが瞑想にのめり込みすぎて、部屋にこもりっきりになってしまったのだ。まるでトランス状態にでもなったのか、2週間くらい出てこなかった。みんなで代わる代わる説得しにいったのも空しく、彼女は誰よりも早く神に近づきたいと思っていたようだ。ミアを始め、大勢が心配した。マハリシも気にかけていて、ようやく本人が出てきた時には、瞑想は短時間に区切ってやるようにと念を押した。そんな彼女のためにジョンが曲を書いている、それが「ディア・プルーデンス」で、メンバーたちが部屋の外から歌いかけたものだ。
 リンゴとモーリンも、2週間しかいなかった。モーリンがハエの多さに耐えられなかったらしい。

(中略)

 ポールとジェーンは1ヶ月ほどで帰国している。ポールがロンドンのことや、ビートルズが立ち上げようとしていたアップル社のことが気になっていたようだ。

モーリン、カワユス。ハエ、多すぎだもんね! だからジョージも好きになっちゃったんじゃないかな。(ジョージはリンゴの奥さんのモーリンに浮気してました。それがパティとの離婚の引き金になったともいわれており、もうめちゃくちゃなんだわ、このへん)

<つづき。中略>
 気温が日を追って熱くなってくるにつれて、川の水の冷たさが心地よく感じられた。流れが速いので、水の中で脚を浮かせば川面が滑り台となって、体をすいすい運んでくれた。それをジョージは不謹慎だと眉をしかめていた。なのに、よりによって私はその川で、結婚指輪をなくしてしまったことがある。頭がまっ白になった。ジョージにバレたら大変だ。一緒にいたジョニー・ファローと20分ほどさんざん探し、諦めかけたその時、奇跡的に彼が見つけてくれた。思えば虫が知らせたのかもしれない。
 それ以来、いろいろなことがギクシャクしてきた。まず、ミア・ファローがジョンに打ち明けたところによると、マハリシが変な態度をとるようになったそうだ。どうやら、彼女にモーションをかけたということらしい。ジョンはカッとして帰ると言い出した。すると今度はマックス・アレックスも、自分が仲良くなった女性にマハリシが言い寄ったという話をした。それが本当だったのかは疑問だが、いずれにしてもアレックスはジョンをリシケシから遠ざけたいようだった。マハリシが邪悪だと思い込んでいて、いつも「あれは黒魔術だ」と言っていた。ジョンもヨーコに会いたくて、帰国するための言い訳を探していたとも思える。真相が何であれ、彼らも去っていった。
 私たち夫婦とジェニーはとりあえず。マドラスへ南下することにした。ジョージが、2ヶ月間の瞑想生活からイギリスの喧騒に直行するのを嫌がったためだ。新しい事業、次期マネージャーの発掘、ファンにマスコミ、こうしたものから逃げるようにして、私たちはラヴィ・シャンカールに会いに行き、彼の音楽に我を忘れる日々を送った。

「これって、虫の知らせ?」みたいなメンタリティが可愛い子ちゃんぽいなぁと思いつつ、本題はその後のこと。
「アレックスはジョンをリシケシから遠ざけたいようだった」「ジョンもヨーコに会いたくて、帰国するための言い訳を探していた」って? いまなんつった? ヨガを通じでビートルズについて知っていくにつれ、ジョンはとっても、周りに影響されやすい人だったという印象を持つようになりました。
そんなこともどんなことも、曲にしちゃうのはすごいと思うけど。

<188ページ 第7章 悲しみの始まり より>
 偉大な師のもとで、瞑想の世界について学んできた。いろいろな憶測が飛び交ってはいたが、ジョージと私にとってマハリシは、やはり師匠だ。悟りの境地へと導いてもらったし、おかげでパリッと新鮮な気持ちでリシケシから戻ってこられた。にもかかわらず、インドを発った時から、夫婦の溝は深まっていくかに見えた。
 早く友達みんなに土産話をしたくてうずうずしている私をよそに、ジョージは殻にこもっていた。インドに行って以来、ずっとピリピリしていたのだ。あの体験は、確かに彼の人生の悩みを少しずつ解消してくれてはいたが、魂から明るさを少しずつ奪い取っていった。帰国後もジョージは瞑想や詠唱にのめり込む一方で、マニ車をいつも回せるよう。常に手元に置いていた。その点は私も同じであったが、彼の場合は異常なほどそういうものに執着していたのだ。そして元気がいい時もあったものの、やる気がなくて落ち込んでいる日が少なくなかった。こんなことは初めてだった。ジョージが落ち込むなんて。だけど、私にはどうすることもできなかった。それどころか気がついたら、自分に何の原因がなくても、単純にジョージにつられて落ち込むようになっていた。当時の日記を見てみると、二人とも満月になると特に、グッと気が滅入っていたのが分かる。

(中略)

 ジョージはさらに、ほかに女性がいて、それも私を傷つけた。インドで彼はクリシュナに感化されている。常に大勢の美女に囲まれている神の化身だ。それでクリシュナのような、愛人を大勢抱えたスピリチュアルな存在になりたいと思い始めたらしい。実際に自分でそう言っていた。

常に手元にマニ車置いてる夫婦って……(笑)、と思うのだけど、これも本題はその後。「常に大勢の美女に囲まれている神の化身」って? いまなんつった? それって、「絶えず献身的な若い女性に取り巻かれていた」というガンジーの晩年のエピソードにちょっと似てないか?
ガンジーのそれに興味のある人はこちら。末尾の引用が対象箇所です)



裏側から読んでみてよかった! この自伝はいろいろな読み方があるのだと思うけど、ヨギにとっては貴重な記述が公開された文献といっていいんじゃないかと思いますよ。
にしてもパティ、かわええなぁ……。

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