うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

破天 一億の魂を掴んだ男 山際素男 著

図書館にリクエストして、待つこと1ヶ月。新品ではもう手に入らず、アマゾンの中古で「8,000円?!(もともと2,980円なのに)」てのもなんだかなぁ、と思い、辛抱強く待ちました。どうしても読みたくて。
読んでみたらこれがすごい内容で。なにがすごいって、「性欲」が・・・。引用の中には、女子のブログにしてはびっくりするような記述が登場するかもしれませんが、多くのかたが佐々井氏を知るきっかけになるかもしれないので、あえてピックアップしています。

うちこはこれまでこの日記の中で、アンベードカル博士について、
アンベードカルの生涯
ブッダとそのダンマ
インド社会と新仏教―アンベードカルの人と思想
の三冊の本の紹介と、アンベードカル博士のことは知らなくても、この人のことを知らない人はいないであろう
ガンジーの実像」という本の紹介を通じて触れてきました。
今日紹介するこの本は、佐々井秀嶺(ささい しゅうれい)さんという、インドで活動している日本人僧侶。アンベードカル博士の新仏教を、インドで受け継ぎ活動している日本人の伝記です。どれだけの人か、というのは、以下のサイトをご覧いただいたほうが早いです。


 ★「アエラ」(2005年2月21日号掲載)の要約。山本宗補さんのHPより。
 ★「大法輪」2004年8月号掲載の要約。山本宗補さんのHPより。
 ★インド仏教の頂点に立つ男(フジテレビ放映番組の紹介)
 ★「スパイシー(SPYSEE) 」(人物マッピングが面白い)


ご紹介するのはほんの一部ですが、どこを切り取っても「強くて、エロくて、豪快で。導かれて、導いて。」という、どうしようもなく魅力にあふれた人です。そりゃぁモテてモテてしょうがないでしょう。

<90ページ 第一部・第三章「出家」より>
そうかい、そんなら、というわけで、あれよあれよという間に秀嶺は二代目東家楽水を名乗る浪曲師としてデビューすることになってしまった。

まだ日本で僧侶やってるときに、すでにこれです。易者もやってるし・・・。

<136ページ 第二部・第二章「インド仏教徒の中へ」より>
(インド仏教徒センターへ到着した場面で)
「誰です、この人は?」
「この人を知らないのか、あんたは」
「知りません。どなたです?」
「この人が、ビームラーオ・ラームジー・アンベードカル博士です。我々仏教徒の大指導者であり、新憲法を創設し、不可触民制を廃止した我々の解放者なのです」
ふーん。それにしてもよく似ている。きらきらと輝く広い額、大きな顔。白衣に身を包んだ巨躯。これにあの長い白髪と髯をくっつけたら、あの晩現れた"竜樹"と名乗る人物そっくりではないか。

夢で導きを受けた後、それがアンベードカル博士であることを知る場面の描写。

<214ページ 第二部・第三章「さらに民衆の懐深く」より>
どうして"女"に捕らわれてしまうのか。女漁りをするわけでもないのに、女に取り囲まれ、その網から逃れられない。(中略)思い悩んだ末、「我を滅ぼすものは誰ぞ」という題でこんなことを書き連ねた。

というあとの文章がすごいんです。めちゃくちゃ長いので、一部雰囲気がわかるように抜粋しますと(佐々井氏の手記部分)

「(前略)ただ我の眼前には女体が悶え、女体が呻き、女体がうねり、女体が開き、女体が熟し濡れ、のけぞり、女体が戦慄し、女体が締め、女体が我を抱き、我を包み、女体が我を圧す。ただ女のみ。女、女、女。我はのけぞり、呻き、我は吸い、我は締め、我は押し、戦慄する。我は一箇の生殖器となりぬ。これが我なのだ。これが真実の我なのだ。これが我が生命なのだ。これが人間の姿なのだ。これが真実の実践なのだ。
(中略)女、この女、そも何者ぞ。我を苦しめるものは、太腿をびくつかせる女体に非ずや。愛液を流し滴たたらす太腿の奥の女陰が何故に我を苦しめ、我を殺し、神仏を嘲笑い、一切を滅ぼそうとするのか。(ここまででほんの一部)」

この手記は未完に終っているそうですが、佐々井氏が保管していたものだそうです。官能小説家でデビューしていてもおかしくない描写。多才だ・・・。

<289ページ 第三部・第一章「大菩提寺奪還闘争」より>
「(佐々井氏のスピーチ部分)私の血の中にはインドの血が、仏教徒民衆の血がいっぱい流れています。皆さんの血にはアンベードカル博士の血が流れ、インドの子の血が流れています。私も及ばずながらアンベードガル博士の意志を継いで、この国に仏教を蘇らせ、仏の教えに満ちた国にしようという大悲願を立てて生きてきました。私の血は皆さんの血、インドの民、アンベードガル博士の血と混じり合い、一体となっています。皆さんに守られ、一歩も退かず生命ある限り皆さんと共に歩んでゆきます」
名調子であった。人々は一時間半にも及ぶスピーチに酔い、感動した。

ずっと流れで読んでいると、ここで「うぐっ」ときます。

<406ページ 第三部・第三章「無期限闘争宣言」より>
(インド核実験のあと、佐々井氏が拡声器で首相に向けたメッセージ)
「おー、大馬鹿者のインド首相よ、出て来い! 汝らは仏陀誕生の日に地下核実験をやってのけた。なんたる暴挙だ。汝らは亡国の輩であるぞ。やい、バジパイ首相、私の前に出て来い。汝はダンマ(理法)と仏陀の国をその汚れた足で踏みにじったのだ。(中略)私は生まれは日本人である。だが今この血にはインド民衆とアンベードガル菩薩の血が流れている。そして原爆体験をした唯一の民族、日本人の怒りの血が燃えたぎっているのだ。核戦争の悲惨さを思い知れ。それによって苦しむのは常に無辜の民なのだぞ。国民を騙し。罪なき人民を大量殺戮する武器を作ってそんなに嬉しいか、この大馬鹿者。(以後も続く)」

ちょうど終戦記念日の頃にこの本を読んでいたので、とても沁みました。


ただ導かれるままにインドへやってきた男は、ガンジーとアンベードガルの関係や争点を知らないまま、ガンジーへの尊敬を意味した発言で誤解を受けたり、そもそもカースト自体に「はぁ?」という状態だった佐々井氏。偉大な指導者となってからも、国籍取得までの道程のなかに、インド社会の実情がそのまま映し出されています。
ただの「ものすんごい人の物語」ではなく、インドの政治、社会、差別、アジアの仏教を、彼の人生を通じて読むことができる、貴重な本だと思いました。
こうゆう本はさっさと復刊、増版されなければいけません。アジア全土の仏教のために。


★追記(2008/11月)
と思っていたら、なんとめでたく新書化されました!

▼紙の本


★追記(2014/9月)
なんとKindle版も! 光文社えらい。感動。

Kindle