うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

「人と比べない」ってどういうこと? とずっと思ってきた

ヨガクラスでたまにインストラクターのかたがおっしゃる「人と比べない」という表現について、自分のなかではじめて意味が想像できたかも、と思うきっかけがありました。

わたしはヨガを始めてたぶん18年近くだと思うのですが、ヨガクラスでこのフレーズを耳にするたびに、なんでこれを言うんだろうと思ってきました。

このフレーズはこのインストラクターさんの経験からの言葉なのかな、そういえば本でもよく見るような気がするな、多くの人の心にある共通の何かがあるんだろうな、と思いつつ、掘り下げて考えたことはありませんでした。


わたしは日本語が母国語でない人からヨガを習ってきたため、「比べない」に該当する言葉を拾っていないのかも知れません。
似たものをあらためて探してみると、日本語が話せるインド人の先生の言い方は

 

 

 サッとやって

 


でしょうか。
もう一人の、英語で教えてくれたインドの先生のフレーズでは
日本語にすると

 


 あなたの練習をしなさい

 


たぶんこの辺りが、それに近い気がします。
いずれにしても「人と比べない」にバチッと該当するものがすぐには思い浮かびません。

先生はとてもやさしいけれど、言われるほうの感覚では「いいからやれ」という感じ。
やらない理由をさがすのもあなたの中で起こること、という前提があるので、そこに他人への意識が介在したことがありませんでした。
なので「人と比べない」というフレーズを大人しかいない空間で聞くと、指導する側が練習者を見くびっているように感じます。これは、わたしの個人的な経験からの感じ方です。

 


それが、それがですよ。

映画『東京物語』を観たら、ずっとわからなかった「人と比べない」というフレーズが使われる理由がわかったような気がしました。
他人と比較しながら自分自身を確認する、という思考方法が、そもそも日本のコミュニケーションに古くからあるようなのです。映画の終盤にとても印象的な会話がありました。
この人たち、こうやってなにを確認しているのだろう、と思う夫婦の会話。

 


 「欲を言えばきりがにゃーじゃが(ないけれども)、まあええほうじゃよ」


 「ええほうですとも。よっぽどええほうでさあ。(いいほうですよ) 私らは幸せでさあ(幸せですよ)」

 


いちいち、“ほう” がつく。good とは言わず、自分内 better でもなく、世間の中でどうか、漠然とさぐる比較意識があります。
この会話が、以下のように繰り返されます。

 


 「そうじゃのう。幸せなほうじゃのう」


 「そうでさ。幸せなほうでさあ」

 


欲は抑えるけれども、いい「ほう」、幸せな「ほう」に居られているか、それを確認しあうような会話。
ヨガ仲間で『東京物語』を観たことがあるという人にこの話をしてみたら、「その会話、なんか覚えてる」とのことでした。わたしのモノマネの精度が高かったせいもあるかもしれませんが、印象に残る会話だったそうです。

 


小津安二郎監督の映画って、そういうところがあるんですよね。
普通にありすぎて言語化できない思考のパターンを、セリフの繰り返しに落とし込んでくる。

子供たちにないがしろにされつつ気遣いも受けて、子供が全員戦争で亡くなったわけでもなく孫もいて、さて……。という漠然とした空虚感。
そこを埋める思考に、他者との比較がある。

 


ヨガのクラスで他人と比較する瞬間も、そうといえばそうなのかもしれません。
集中力が切れたときに、それがやってくるのだと思います。

 

 

 遠慮しないでどんどんうまくなってください

 

 

わたしは練習中にこんな声がけをすることがありますが、これは序盤に書いた「サッとやる」の言い換えです。
漠然とこのへんならいいか、を探っているときは、空虚感に襲われる前兆。そういう、集中力を妨げるダークサイドを自分なりに観察してきたので、なんとなく言葉が出ます。

 

遠慮しないでどんどんうまくなっていいのにブレーキをかけるマインドは、
東京物語』でいうところの

 

 

 紀子「わたくしずるいんです」

 

 

でしょう。
ずるくないよノリちゃん!  と、みんなが思う場面。


━━ だんだん話が限定的になってきました。

でもこの話を続けたいので、まだ観てない人はとりあえず映画を観てください。

 


そしてわたしは続けます。
ノリちゃんはこのあと、ものすごく大事なことを教えてくれるんです。

 

 

 紀子「どこか心の隅で、なにかを待ってるんです。ずるいんです」

 

 

ね! これです。
どうですか。このセルフ・リアライゼーション!
なのでね、人と比較してグズグズする瞬間がやってきたら、自分を戒めるために脳内でスワミ原節子を起動しましょう。

 

 

 「わたくしずるいんです」

 

 

もう最終的にはなんの話かわからなくなってきましたが、今日は日本式コミュニケーションの定番フレーズと思考の癖がやっと理解できた、という話でした。