うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ペルソナ 脳に潜む闇  中野信子 著

強い言葉を使う鋭い部分をあえて削らずにそのまま出版したのかな。かねてより我慢してきたことが書かれた自伝エッセイのような本でした。そしてそこから「たとえ科学で証明ができたとしても、人間はブレて、迷い続ける」「勉強したいと思った時が適齢期」という考えに至るのはとても合理的で、前向きさが現実的。


この本を読みながら何度か、少し前に読んだ『正欲』という小説を思い出しました。
中野信子さんも「耳障りのいい言葉はほとんどの場合、不都合な真実とセットである」と語ります。
学生時代から現在までの世界の感じ方を語る時に見える人格は、まるで『コンビニ人間』の古倉さんのようで、この世代の諦念のようなものを隠さずに書かれています。
この感覚を持つ世代は単純に数だけ見ても人口が多いから、自分はうまくいっていても同世代の仲間だったかもしれない誰かが泣いている。中年になってからはさらに不都合な真実が顕在化している。就職氷河期以降の世代の人にとって、リアルタイムでこの自伝はグイグイきます。


わたしはこの著者のように「ここで頑張っても無駄だとわかったからやめた」と正直に伝えていくこともけっこう大事なことだと思っているのですが、それはとても表現のしかたがむずかしい。「やめて、こうする」を表明した時にその情報の受け手には再現性がないことが多く、結局となりの地獄の扉を開けるだけじゃないか、無駄じゃないかと解釈する人もいる。
となりの地獄から得るものがあるという考えは時代や箱の構造を見ればかなり前向きだと思うのだけど、なかなか理解されません。でも実際、二つ前の地獄と三つ前の地獄で得たスキルの掛け合わせで力をつけている、みたいな状態の人って多くないですか? わたしはずっとそんな感じです。

 


この中野信子さんの自伝は腹の底をぶっちゃけたような書き方になっているけれど、それも含めて自分の認められ方を自分でデザインしているところが現代的な頭のよさだなと、最後まで読んでしみじみ思いました。
脳科学ライフハック的なものを求めてたのに内容が違う」と言いたげな批判的アマゾンレビューが存在するところも興味深く、タイトルでうまく釣れてるという意地悪な見かたができてしまう。
「ためになることをわかりやすく話してくれるキャラクター」を必要に応じて演じていくには、このくらい黒くないとやっていけない。そりゃそうだ。
考えることを避けたい人向けにプレゼンをするときは「ためになるって、なんだよ」と内心ツッコミながらやるか金の湧く汚水の泉を掘る感覚でやるかになると思うのだけど、明らかに前者のスタンスで葛藤しているところが結局この著者の魅力になっている。そりゃ信用する。しちゃう。ジゴロだわーもう。

 

ペルソナ 脳に潜む闇 (講談社現代新書)

ペルソナ 脳に潜む闇 (講談社現代新書)