うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ハッサン・カンの妖術 谷崎潤一郎 著

どこまで事実でどこまで創作なのかわからないのだけど、いずれにしても抱く感想は「あなたもインド人に出会ってちゃぶ台をひっくり返すどころか畳ごと剥がされたような、頭をぐっちゃぐちゃにされる目に遭ったのね! 同士☆ハグ」という思い。谷崎潤一郎本人が登場し、自伝のように話が進みます。
序盤は「玄奘三蔵」を執筆中に上野の図書館で出会ったインド人と話すようになるまでのエピソード。中盤は独立以前のインドが物質世界に染まる染まらないの話、そして終盤はまた別の展開…。とにかくおもしろい。
上品さと深遠さとマサラな下世話さをシームレスにつなぐこの日本語技術、どうなってるの。わたしもほしい。(どこで使うの)

 


この物語に出てくるインド人の思想は、まるで「逆ガンジー」。独立以前のインド人てこんなこと考えてたんだ!というのがものすごくナマナマしく書かれています。彼は物質社会にどっぷりダイブした日本を成功事例として見ているのだけど、本人の人格のルーツを掘っていくとぜんぜん別の展開が…。
あとはネタバレになるから書かずにおきます。おきますけれども…
ちょっと予告がてら「わたしが映画版のタイトルをつけるなら」という言いかたで書くと

 

 

 谷崎潤一郎のドキドキ★魔境体験記 ~ぼくのグルジは躁鬱病

 


いやそれにしても。それにしてもおもしろいよこれ…。インド人の独白タイムがとにかくおもしろすぎて、こんなインド人とわたしも会ったことある気がする。自己肯定感が高すぎて狂っていくあの濃いアンニュイさってどうにも日本語化が難しいのに、書くんだよねぇ文豪は。すごいわー。
そして中盤から谷崎潤一郎本人ががっつり絡みはじめ、そこからのめくるめく展開と挿入される安定の狂気。うますぎる結末。
ほめすぎかな。なんか他に言うことないんか。それじゃあまるで信者みたいじゃないかと自分でも思うのだけど、このさい信者と思われてもかまいません。

 

▼紙の本ではこれに収録されています

 

 ▼Kindle

 

 

<補記>
「独立以前のインド人てこんなこと考えてたんだ!」という部分をさらに理解するために、インドと日本の歴史の一部を添えておきます。中村屋のボース(ラース・ビハーリー・ボース)と同時代に日本に居たインド人×谷崎潤一郎の交流と思って読むとリアリティが増します。

1914年:第一次世界大戦はじまる(日本も参戦)
1917年:谷崎潤一郎「ハッサン・カンの妖術」書く
1918年:第一次世界大戦終了
1919年:ガンディー「ヤング・インディア」誌を創刊
1927年:「中村屋」喫茶部がカレーを売り始める(中村屋のカレー)
1942年:ガンディーが「日本の全ての方々へ」を書く(参考
1948年:インド独立(ガンディー暗殺される)
1949年:銀座「ナイルレストラン」開店
1965年:谷崎潤一郎