うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

静かに、ねぇ、静かに 本谷有希子 著

感謝という単語の生み出すイメージはスマートフォンの普及とともにざまさまな色を増やし続けているなぁ、なんてことをぼんやりと思う数年を過ごしていたら、出会っちゃった。読んじゃった。
シャーンティーでロハスなことが綴られたSNSに登場する「感謝」の前後の文脈をよくよく見てみれば、半分は悲劇、半分は喜劇。安易に使うとケガをする「感謝」の二文字はテキスト化した時点で真実でなくなってしまいやすい。「感謝しかない」というフレーズを使う人に見られる迂闊さ浅ましさに小さく傷つき、読み手を見くびりすぎですよ。なんてことを日々呼吸をするように思っていたわたし。
この小説の第一話目「本当の旅」を読んでみれば、その理由がわかります。丸裸にされます。


油断するとシャーンティーで感謝に満ちたワンネスめいたことをのたまうわたしは、この小説を驚きながら傷つきながら、うわー! ぎゃー! う~ん、そこ! もっと!!! ぎゃー! と心の中でつらいんだか気持ちいいんだかわからぬ悲鳴をあげながらいっきに読みました。そうこうしている間にわたしのなかの 「ちゃんちゃらおかしなシャーンティー」も 「実のところ条件つきの感謝」も「都合の悪いものは編集済みの範囲でのワンネス」も完全に居場所がなくなって、すっきり。これはものすごい自我の断捨離。いやぁ、しんどかった~(部活の後の輝く笑顔と汗と共に!!!)。さっ、早く着替えてマックシェイク飲みに行こっ☆ なんて気分の爽やかな少女時代の輝きを取り戻した。一瞬だけ。


SNSと「感謝」はとても相性がよいものです。この二文字でクロージングしておきさえすれば、まるで自分が残念ではないと確定できるかのよう。自己暗示的幻想的呪文。「シンプル」も「必要」も魔力がある。「サイン」も「しるし」も拠り所になる。この一冊の中に、この世から「占い」がなくならない理由の根源的なところを三方から照らしたかのような三つの物語が入っているのだけど、それを会話と設定で見せていく流れがうますぎて。ネットとリアルが交錯する社会現象をよーーーく研究してるなぁ…と驚く。
こりゃ大変な事態である。すべてに感謝してる場合じゃないけれど、それもまたひとつの呼吸法。

静かに、ねぇ、静かに

静かに、ねぇ、静かに