うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

狐になった奥様 ガーネット 著 / 安藤貞雄(翻訳)


どうしてそんなことを想起するのかわからないのだけど、従順な女性と結婚してDVをやめられなくなっていく男性の心の変化を見ているようでした。この小説の物語自体はたぶん美談として読めるものだと思うのだけど、登場人物の心の変化を細かく追っていくと、イイ話かそうでないかというのはラッピング次第なのだと気づく。そんな深みがあります。
女性が従順であるからDVをしてしまうのか、従順じゃなかったらしないのか、従順じゃなくても結局するのか、あるいはDVをしやすい状況を得たからするのか、相手が反撃できたらDVという概念すら成立しないのか、相手のほうが強くなったらどうなるのだろう……。狐になった奥様は、従順な人間の女性よりも生きものとして強い身体能力を得ていくことで、どのような「生」に向かっていくのか。読みながらどきどきしました。このどきどきがこの本の読みどころなので、最初から展開はネタバレした状態で(狐になると予告された状態で)始まります。
中盤からは一貫して「俺、負けてないもん。負けてねーし!」と狂っていく主人の様子が印象に残ります。
本文の中で作者がふいに登場する語りがあって、こんなことをおっしゃる。

わたしは、いまでは第二の天性として真の懐疑主義者になって、何事であれ、決定的な証拠がないかぎり、まずもって信じないことにしている。

最後の狐の行動から想像される情緒も、作者は信じていないということ?
野生と情緒の対立をこんな物語にして描くだなんて、おもしろい! これは恋愛経験によって感想が分かれそう。友人と語り合いたくなります。