うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

苦汁100% 尾崎世界観 著


良心があって、記憶があって、それが組み合わさって理想があって…、でもいちいち口にするのって、とってもめんどう。
理想の流れは黙っていたら伝わらない。でも黙っているのに伝わっているときもあって、ついついそのうれしさで記憶を強く刻んでしまう。
伝わっていないこともある。伝わるまでに時間差があったり、流れが逸れたり変わったり。
そこで理想をなかったことにできないと、衝突が生じる。
伝わるうれしさと、伝わらないもどかしさ。そうじゃねぇだろという怒り。
そいういうものがつらつらと書かれている日記なのだけど、なにせ文章が面白い。


たとえばものすごくゆっくり、ゆっくり、ゆーっくりとした手順を踏むことが正義として物事がすすめられるとき。
なんでそんなにまでゆっくりなのか、そんなに大したことかよ…というとき、ちょっとイラッときちゃう。
でも抑制って大事なんだって、歳を重ねるとわかる。感情の抑制だけじゃない。
こんな日記があります。

 次の日の収録に備えて、夜に行った居酒屋では、口に含んだ少量の酒をまず口内に充分に染み渡らせてから喉に流し込むという、ドモホルンリンクルの販売方法のようにまどろっこしい飲み方で酒量を抑えた。
(8月30日の日記より)

このあとの流れがまた大爆笑。おもしろすぎる。
まったく想像のつかない生活をしている人の日記なのに、「おお」という思いで一瞬自我が棚上げされてしまう。魔法の比喩がページをめくるごとに登場する。松岡修造カレンダーって、きっと買ったらこんな感じなのだろう。


その流れで、そうくるの。そうかぁ、そうくるの。くるのかぁ〜。
あらやだ。クスクス笑っているうちに、わたしの怒りが成仏してる!
日々の鬱憤、あるいは積年のモヤモヤまでもが、まるでお焚き上げの儀のように視覚化されて消えていく。
対価を支払って得た文章なのだからその楽しみは存分に享受していいはずなのに、他人の日記を読むときはいつも、なんだかいけないことをしているような気がする。でも、おもしろいんだからしょうがない。しょうがないわーこれ。
壇蜜日記」をおじさんが読んでもおもしろいように、この日記はおばさんが読んでもおもしろいです。


▼紙の本

苦汁100%
苦汁100%
posted with amazlet at 17.06.11
尾崎 世界観
文藝春秋


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