朝日小学生新聞の連載を再構成したものだそうで、読み応えがあるというか、これは大人でも知らないことが多いのでは? というほどの内容。
著作権は「心を守る権利」と「財布を守る権利」に大別して説明され、古くから政治力があった業界とそうではない業界の有利性・不利性まで網羅されています。
フランスのように革命によって民主主義や権利が主張され、その後もさまざまな修正があり王政復古まであって…という試行錯誤が繰り返された国と、日本は違うよ。日本は敗戦でいきなり「自由と民主主義」の国だから、大人も理解していない人が多いよ。という説明が序盤にあり、そのトーンで最後まで続きます。
他人に「モラル違反だ」などと言う人は、「わたしのモラルとちがう」「わたしは気に入らない」と言っているだけなのです。この「心の中のモラル感覚」と「行動についてのルール」を区別できない人が多い──というのが、実は日本人の特徴です。
(17ページ 1「社会のルール」というものについて考えてみよう より)
今の大人たちは、まだ「民主主義」をよく使いこなせていません。前にお話したように、長い間「みんな同じ心を持っているはずだ」(対立はないはずだ)という文化にひたりきってきたからです。
そのような文化のために、「対立の存在から目をそむける」とか「少数派を『空気を読まない』などと言って批判する」とか「対立を乗り越えるための建設的な議論が苦手」といった傾向が、強く見られます。
(229ページ 4「ルールを変える」ことを考えられるようになろう より)
読み始めて早々、この本はいわゆる "おりこうさん" 向けの本ではないな…ということがわかり、いっきに引き込まれました。新聞連載が元なので何度も同じことが言葉を変えて出てきますが、そこがすごく大切なところ。
そしてこの本は「小中学生のための」という本でありつつ、契約が苦手な日本のビジネス界の特徴にまで触れ、さらに著作権法が複雑になる流れまで以下のように説明されます。
要するに、後々問題が起きないように、自分たちの努力でしっかりした「契約」をするのではなく、「自分たちが努力しなくても問題が起きないよう、政府や官僚が一律の法律ルールを決めてくれ」と言っているわけであり、そうした傾向が、著作権法をますます複雑にしているのです。
みなさんはどう考えますか。
(178ページ 2 まず「今のルール」を知ろう より)
ほかにも図書館についてどう思う? とか、美術館での撮影禁止は著作権法とは関係ないことなどなど、いまどきの論点で語られます。さまざまな業界の力関係も学ぶことができ、わたしも知らないことがいっぱいでした。
どんな契約も「全員が不満足」があたりまえなのだという説明は、ほんとうに必要な認識なんですよね。たとえば雇用契約ひとつをとっても、よく読むと「これは…」というものはある。
おもいのほか「自分で考える習慣・感覚を身につけよう」という骨太の内容で、同著者のほかの本も読んでみたくなりました。