うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

祐介 尾崎世界観 著


信じたいけど決して信じてはいけないことを知っています。という心の状態を表現する歌をこれまで聴いたことがなかったわたしは、はじめてクリープハイプを聴いたとき、すごく驚きました。知ったきっかけは「百円の恋」という映画でした。
この小説は曲を聴いて感じるなつかしいしんどさのルーツが少しだけ解き明かされるような物語で、ひたすらアウェイ感だけが繰り返されます。
不快感の比喩が秀逸すぎて、イメージを超えた気持ち悪さが広がる。自分のなかに確実にある差別感情から目をそらさない人にしか書けない、たまらなくいやな感じ。そしてそんなうまい比喩すら自嘲する。自身への評判をセルフカバーするセンスがなんともしゃれている。誰ひとり一方的に悪者にすることなく、ライブ活動の環境を呪いながら、会話と脳内セリフと五感の描写で進んでいきます。
体の腐臭と心の腐臭がシンクロするような表現には吐きそうになったりもするけれど、ページを読む手が止められず、いっきに読んでしまいました。

怒りと性的な衝動は本当によく似ていて、相性が良い。(P38)

積み重ねた時間で身に着けてしまった知識が怖かった。(P71)

の前後が、ひときわ印象に残ります。
ほかにも関西弁の語尾で誘導される感動の強要をものすごくリアルに描いている場面があり、忘れていた嫌な感情がじわっと溶け出しました。読みながら「これは、あらゆる疎外感の中でもわたしがとりわけ嫌いな疎外感だ」と、自分の細かい感情の法則に気づく場面が何度もありました。
著者は自分のことを

俺は、俺を殴ってやろうと思ったけれど、どう殴っていいのかわからない。血が出たら怖いし、かわいそうだ。(P140)

と書いています。
ここまで読んだところで、歓迎されない自分を「もともと特別なオンリーワン」とか言っちゃって抱きしめようとする人間がものすごく強欲に見え、抱きしめる前に殴ることまで考えたこと、ある? と問われているかのような気持ちになりました。
欲の描きかたが細かくて自省に満ちていて、いやな感じがくせになる。謙虚さをストレートに表現しない謙虚さに心を掴まれてしまった。


祐介
祐介
posted with amazlet at 16.07.15
尾崎 世界観
文藝春秋