うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ウォーク・イン・クローゼット 綿矢りさ 著


もうすっかりハマってしまい、ペンネームどおりの「綿に矢」みたいな感じがクセになっています。
この本はタイトルになっている「ウォーク・イン・クローゼット」と、もうひとつ「いなか、の、すとーかー」という2つの物語が収められていて、「いなか〜」のほうが先にあったので先に読んだのですが、この話に出てくる関係性やセリフがいちいち刺さる。
ジャッキー・チェンとユン・ピョウを二本立てにしてくれなくても、それぞれ観にいきますが…みたいな気分になるほど、それぞれに「この話すき」という人がいそう。
「いなか、の、すとーかー」が、ちょっとサスペンスだし、ありそうな話なんだけど、内面の描き方がいい。主人公が明らかに情熱大陸らしいテレビ番組に出ることを少しずつにおわせていく導入で

フフふんふんふーんとプロデューサーは有名なテーマソングを口ずさみながら、

なんて書く。この冒頭の音のカタカナがたまらない。


「ウォーク・イン・クローゼット」では、「勝手にふるえてろ」にもあったような、女性の目線で描写される男性像がこれまたたいへんなことになっておりました。

洗練されたおしゃれが細部に行き渡っていて、ワックスで立てた髪が後頭部まで形良く完成されて、合コンのメンバーのなかでもっとも空気を読むのがうまく、料理を取ったりドアを開けたりと紳士的だった。ちょっと目つきが無感動というか、死んでるみたいなのが気になるけど、覇気のなさがクールに見える。

好きでも嫌いでもない段階での描写が、コントみたいにおもしろい。



「いなか、の、すとーかー」は、同級生のセリフが鋭い。特選ふたつ。ここでぐわっときます。

  • 笑顔で前向きなこと言って雑誌にでも出たら、超絶孤独な人間は、自分にだけ微笑みかけてくれたと思うんだよ。
  • どいつもこいつも、愛してるだの答えがほしいだの、帰ってほしいだの、向き合ってほしいだの、くさった愛情で頭がわいてる。誰も好きにならずにときどき風俗行くだけのおれのほうが、よっぽどまともだ。

くさった愛情を頭のなかでこしらえるんだよ、ほんと。


「いなか、の、すとーかー」はエンディングもいまふう。
熱狂的に執着された経験のある作家でないと書けない心境で、男性が主人公でないと書きにくかっただろうなと思う。ストーカーの強烈な事件が続いているけど、執着される側の「応援って条件つきなんですよね。わかっていますがんばります」と「もうやめます」の境界が見えそうなところで見えない読後感がたまりません。


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