うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

琴のそら音 夏目漱石 著


幽霊を研究している心理学者の友人とのやりとりで構成される短編。
二人の青年による、結婚についてのボーイズ・トークが楽しい。

「そうだったね、つい忘れていた。どうだい新世帯の味は。一戸を構えると自から主人らしい心持がするかね」と津田君は幽霊を研究するだけあって心理作用に立ち入った質問をする。
「あんまり主人らしい心持もしないさ。やっぱり下宿の方が気楽でいいようだ。あれでも万事整頓していたら旦那の心持と云う特別な心持になれるかも知れんが、何しろ真鍮の薬缶(やかん)で湯を沸かしたり、ブリッキの金盥(かなだらい)で顔を洗ってる内は主人らしくないからな」と実際のところを白状する。
「それでも主人さ。これが俺のうちだと思えば何となく愉快だろう。所有と云う事と愛惜という事は大抵の場合において伴なうのが原則だから」と津田君は心理学的に人の心を説明してくれる。学者と云うものは頼みもせぬ事を一々説明してくれる者である。

おもしろいでしょ。



友人が研究している幽霊の話を聞くにしても、主人公は

実を云うと幽霊と雲助(くもすけ)は維新以来永久廃業した者とのみ信じていたのである。

という。軽くていいでしょ。雲助は、「江戸時代に、宿場などに居て、かごをかついだ住所不定の人夫」だそうです。
Google検索で出る画面より)



そして、おもしろい身体描写も。

心配事があるときに家に人が来た場面で
突然何者か表の雨戸を破(わ)れるほど叩たたく。そら来たと心臓が飛び上って肋(あばら)の四枚目を蹴る。

心臓=あばらの4枚目。細かい(笑)。たまらん。



以下は、たぶんこの小説の本題なのだと思う。床屋にいた別のお客さんらしき人のセリフ。

西洋の狸から直伝に輸入致した術を催眠法とか唱え、これを応用する連中を先生などとめるのは全く西洋心酔の結果で拙などはひそかに慨嘆の至りに堪えんくらいのものでげす。何も日本固有の奇術が現に伝わっているのに、一も西洋二も西洋と騒がんでもの事でげしょう。今の日本人はちと狸を軽蔑し過ぎるように思われやすからちょっと全国の狸共に代って拙から諸君に反省を希望して置きやしょう。

西洋かぶれのオカルト案件を、「日本の狸がナめられているから」という。痛快。


この小説はラストもちょっと小粋。
明治生まれの鈴木大拙さんは「東洋的な見方」を書いたけど、こういう夏目漱石のようなふざけかた、いいわぁ〜。


▼短編なのでネットで読めちゃう
琴のそら音 夏目漱石青空文庫


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琴のそら音
琴のそら音
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(2012-09-27)


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