うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

畜犬談 ─ 伊馬鵜平君に与える ─  太宰治 著


笑える短編。犬と、犬嫌いの人間の話。出だしからいきなりボヤきモードで一気に最後まで読ませる。
このおもしろさをなんと表現していいやら。
犬についてボヤきながら、自身を重ねていくこの描写!

日に十里を楽々と走破しうる健脚を有し、獅子をも斃(たお)す白光鋭利の牙を持ちながら、懶惰無頼(らんだぶらい)の腐りはてたいやしい根性をはばからず発揮し、一片の矜持(きょうじ)なく、てもなく人間界に屈服し、隷属し、同族互いに敵視して、顔つきあわせると吠えあい、噛みあい、もって人間の御機嫌をとり結ぼうと努めている。雀を見よ。何ひとつ武器を持たぬ繊弱の小禽(しょうきん)ながら、自由を確保し、人間界とはまったく別個の小社会を営み、同類相親しみ、欣然(きんぜん)日々の貧しい生活を歌い楽しんでいるではないか。思えば、思うほど、犬は不潔だ。犬はいやだ。なんだか自分に似ているところさえあるような気がして、いよいよ、いやだ。

人間のせこさ、ずるさ、節度のなさを犬に重ね、自分に重ねる。すごいブーメラン芸。




犬との語りが、、、

「こういう冗談はしないでおくれ。じつに、困るのだ。誰が君に、こんなことをしてくれとたのみましたか?」
と、私は、内に針を含んだ言葉を、精いっぱい優しく、いや味をきかせて言ってやることもあるのだが、犬は、きょろりと眼を動かし、いや味を言い聞かせている当の私にじゃれかかる。なんという甘ったれた精神であろう。

人間の太宰さんのほうが、かわいすぎる! 敬語だし、なつかれてるし(笑)。



どこまで狙って書いているのか。これは笑える度で確実にベスト3に入ります。いまのところ、「」「グッド・バイ」に並ぶ。
声を出して笑ってしまいかねない、電車で読むのが危険な物件です。



▼短編なのでWebでもすぐ読めますよ
太宰治 畜犬談 ─伊馬鵜平君に与える─ 青空文庫