タイトルや本文の刺激的な言葉遣いはさておき、感謝と服従について考える仕事論は珍しいので、貴重な指摘。
この本は「怒られたくない」という人間の根源的な心理を仕事論という形態で書いているので、不毛な気持ちの取り扱いに悩んでいる人は、読むと励まされるでしょう。広告やプロモーションの仕事に少しでも関わったことがあれば(自分は開発側だという人でも)、現実味を持って読めるかと思います。
「ここまで変えちゃうなら世に出す意味ないんじゃないの? という正論はいいから、とにかくゴニョゴニョやるのが仕事なんだよなー」という様式を認めるには時間がかかるものですが、そこに悩む時間をほかのことに充てるために、さっさとこの本を読んでしまうのは得策と思う。
「この仕事でモチベーションという単語を使う場面、あるか?」
というくらいスケールの小さなことにも夢のあるキャッチコピーを求めるヤングの前でアルカイック・スマイルしかできないわたしは、読んでたいへんスッキリしました。広告業界の「体裁をまとめる仕事」の事例がいくつも書かれています。クライアントとのエピソードに登場するヒステリックな広報女性の様子は、なんだかいろいろ同じような人の顔が思い浮かんだりした。
この本を読んでいたら、日本人とインド人の似ているところにたくさん気づく。うまく言語化できないけど、あの「エッヘン」というマインドやコネ社会を好む傾向は、日本人は表面に出さないだけ。実は同じくらいギラギラしたものを持っている。男が男の草履を懐で温めたらキモチワルイのに美談になる。ああキモチワルイ。
最後に、忘れがちな教訓を思い出したので共有します。
人間というものは、自分と少しだけ関係のある人々が自分の知らないところでコソコソと何かをやっていると腹が立つものである。
(P150 「仁義を切る」ことが求められ、「聞いてないよォ!」は怒りの根拠になる より)
これ、いつもめんどくさいんだよなぁ。
夏目漱石の草枕の冒頭「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」の港区版という感じです。