うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

男同士の戦争の踏み台でしかない女。そして実は明るい女(夏目漱石「こころ」読書会での演習より)


タイトルは夏目漱石の「こころ」に登場する女性・静さんのことを指しています。
「こころ」の読書会は東京で2回・神戸で1回行いましたが、女性たちは東も西も、ここを見逃していなかった。
「そもそも先生は、Kがお嬢さんを好きにならなければ、火が点かなかったでしょ」と。東京では「男同士の優劣確認の踏み台にされること、あるある〜」「先日会社で…」「そういえば、電車でも!」「それならわたしも、こんなことあった〜」と実例が飛び交う展開になりました。
神戸では、関西のオバチャン感覚のようなものがわたしには非常に刺激的で、その場にいるだけでおもしろい(笑)。いずれにせよ、みんな細かい印象をよく刻んでいる。漱石テキストでインド哲学の心理用語を説明する授業に、伏線の多い「こころ」は屈指の教材です。
文中では、このあたりを女性は読み落とさない。読み落とせないよねぇ。いずれも「下 先生と遺書」より。

【26】
今まで長い間世話になっていたけれども、奥さんがお嬢さんと私だけを置き去りにして、宅を空けた例(ためし)はまだなかったのですから。私は何か急用でもできたのかとお嬢さんに聞き返しました。お嬢さんはただ笑っているのです。私はこんな時に笑う女が嫌いでした。若い女に共通な点だといえばそれまでかも知れませんが、お嬢さんも下らない事によく笑いたがる女でした。



【31】
 宅へ着いた時、奥さんは二人の姿を見て驚きました。二人はただ色が黒くなったばかりでなく、むやみに歩いていたうちに大変瘠(や)せてしまったのです。奥さんはそれでも丈夫そうになったといって賞めてくれるのです。お嬢さんは奥さんの矛盾がおかしいといってまた笑い出しました。旅行前時々腹の立った私も、その時だけは愉快な心持がしました。場合が場合なのと、久しぶりに聞いたせいでしょう。



【34】
「私はKに向ってお嬢さんといっしょに出たのかと聞きました。Kはそうではないと答えました。真砂町で偶然出会ったから連れ立って帰って来たのだと説明しました。私はそれ以上に立ち入った質問を控えなければなりませんでした。しかし食事の時、またお嬢さんに向って、同じ問いを掛けたくなりました。するとお嬢さんは私の嫌いな例の笑い方をするのです。そうしてどこへ行ったか中(あ)ててみろとしまいにいうのです。その頃の私はまだ癇癪持ちでしたから、そう不真面目に若い女から取り扱われると腹が立ちました。

「神聖もなにも、もともと馬鹿にしてたくせに」と、つっこみまくりです。国民的名作だろうが、みなさん容赦ない。




グルジもタジタジ。




関西の女性陣はさらにすごい。
「登場人物のその後」を事前にいただいてテキストに盛り込んだのですが、「静はもともと明るい人だったので、夫に先立たれてしばらくは落ち込むけれども、結局は暗い人から解放されて一旗あげるのではないか」という人がお二人。

<Yさんのストーリー>
何日か泣いた後、心を切り替えて(茶目っ気があるので)、定食屋をして世間と交流を持ち、活き活きと暮す。時代劇に出てくる、主役行きつけのお店のイメージ。



<Tさんのストーリー>
奥さん(静)は時代背景もあって、先生を頼りに生きてきたが、先生のために費やしてきた時間を、自分のために使うことを知った。気難しい先生に対して、芯の強いのんびり気質の奥さんは、かなりの財産を相続して金銭的にも裕福なので、お稽古事を始めた。美しくはんなりした奥さんは 日本舞踊と華道にのめりこみ、筋がよかったのか、かなりの腕前を披露することになり、またお世話もできるので、たくさんの人に囲まれ幸せな余生を送った。はず。

定食屋のオーナーでも踊り子でも、なんにでもなってくれ!





もう笑うしかないグルジ。
だよねぇ。わしも、この展開には笑った。



お二人が見逃していなかった、Yさんが「茶目っ気」と表現された理由になりそうな記述を探してみました。

■上 先生と私【35】
「静、おれが死んだらこの家をお前にやろう」
 奥さんは笑い出した。
「ついでに地面も下さいよ」



■下 先生と遺書【56】
すると夏の暑い盛りに明治天皇崩御になりました。その時私は明治の精神が天皇に始まって天皇に終ったような気がしました。最も強く明治の影響を受けた私どもが、その後に生き残っているのは必竟時勢遅れだという感じが烈しく私の胸を打ちました。私は明白(あから)さまに妻にそういいました。妻は笑って取り合いませんでしたが、何を思ったものか、突然私に、では殉死でもしたらよかろうと調戯(からか)いました。

静さんがこんなに上手にボケてくれてるのに、ちゃんと拾え! 「何を思ったものか」って……。つまんねー男だよまったく。
「神聖」とか言っちゃってるのは、ヤングに向き合うときの先生なんですよね。この、かまってちゃんめ!



 「男同士って、めんどくさそうですね〜」



って。女同士も面倒なはずなのに、盛り上がっちゃったよあーあ(笑)。
もっと教科書的な議論もしています。これはほんの一部です。ほとんどはかなり真面目にやっています。

▼まじめアピールログ