うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

やんぬる哉 太宰治 著


走れメロス」のなかに出てきたフレーズ「やんぬる哉」。妙に頭に残るなぁと思っていたら、そのまんまのタイトルの短編があったので読んでみました。これが、おもしろいんです! 超短編なのですぐ読み終わるのですが、コントのシナリオみたい。
今の時代でも通用するおもしろさ。生活のなかの創意工夫(中途半端なクリエイティビティ)をアイデンティティとしている人に対するキモチワルさの描き方がすごい。田舎の人に対する私見漱石グルジのようなインテリ目線とは違う「金銭感覚」をベースにしていて、これまた鋭い。
ほかの短編も立て続けに読んでいるのですが、どれもラストがお笑いライブを見た後のような感覚になる。あらうまいことオチたわね、という感じがして、太宰さんという人はすごく真面目な、読後感に配慮をするエンターテイナーなんだなと思います。職場に到着する直前に読み終えても大丈夫(笑)。


読みながら「星新一みたい!」と思っていたら、星新一さんは学生時代に太宰治作品にハマってたって……、リズムが移りすぎ! たとえばここ。

おや、お帰りですか、まだよろしいじゃありませんか、リンゴ酒をさあどうぞ、まだだいぶ残っています、これ一本だけでもどうか召し上ってしまって下さい。僕はどうせ飲まないのですから、そうですか、どうしてもお帰りになりますか、ざんねんですね。

星新一さんの本は20年くらい読んでないので忘れちゃったけど、なんか想起したんですよね。N氏とS氏がいるけどずっとN氏が代弁も含めて実況する場面のような、「そうですか、」の前後の接続。


なあなんにせよ、ラストのあっさり感がいい。ユーモアの差し出し方のスピード感が新幹線みたい。「うわわ」と思ったときにはもう新横浜に着いちゃうような、そういう「あらまぁ」感がある。この人、多重人格なの?! 漱石グルジの場合は神経症が翻ってギャグになっちゃう感じなので助走があるけど、太宰さんはいきなりエンジンがかかる感じが、おもしろいけどちょっと怖い。
この作品は、落語を聞いた後のような気分になる短編でした。


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太宰治 やんぬる哉 - 青空文庫


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やんぬる哉
やんぬる哉
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(2012-09-12)