うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

アイデアのつくり方 ジェームス W.ヤング 著


まえに読書会でおすすめしている人がいて、気になっていた本。仕事仲間が貸してくれました。初版が1988年で2012年に第63刷のロングセラー本です。
たしかに売れ続けるだけあるなぁ、という内容なのですが、なにがすごいって、文字数の少なさがすごい。あっという間に読み終えてしまうのだけど、なるほどと思うことばかりでした。読み手のレベルを問わず、刺激的な表現もさして使わず、この短い文字数に集約できるのはすごい。
いっしょに行動する身近な友人ほどよくわかると思うのですが、わたしの頭の中は自分でも「なんでいまこれを思い出すのか、アホではないのか」と思うことばかりです。そんな自分がアホなのではなく、人間にはそういう機能があるのだということが、この本を読んでよくわかり、少し安心したりしました。
何箇所か引用紹介します。


 特殊な断片的知識というものは全く役に立たない。(25ページ「心を訓練すること」より)

これは、ほんとうにそうですね。ヨガを始めたころ「!」とか「☆」と思うことが何度かあって、続けるうちに点と点が線になった。だから継続は力なりなのだと思う。仕事でも特殊な処理とか法改正への対応とかって、絶対覚えてないもんなぁ。



事実と事実の間の関連性を探ろうとする心の習性がアイデア作成には最も大切なものとなるのである。(31ページ「既存の要素を組み合わせること」より)

これは、本当にそう思う。「なんでそうなったのか」「そういうことになっているから」という会話が成り立ってしまう環境ではアイデアは生まれない。「そういうことになっている理由がわからないということで、あってます?」って言いにくい環境では、アイデアがあっても実行できない。



 この資料を実際に収集する作業は実はそうなま易しいものではない。これはひどい雑仕事であって、私たちはいつでもこれをいいかげんでごまかしてしまおうとする。原料を集める(マテリアル・ギャザリング)ために使うべき時間をぼんやり(ウォール・ギャザリング)と過ごしてしまったり、体系的に原料集めをやる代わりに霊感が訪れてきてくれるのを期待して漫然と坐りこんでいたりする。(34ページ「アイデアは新しい組み合わせである」より)

ほんとうに「作業」は大事。作業も行動なんだよね。ヨガの場合は、体験したものを原料別に整理して再認識する作業かな。



クランクを廻すたびにこれらのガラスの小片は新しい関係位置にやってきて新しいパターンを現出する。万華鏡の中のこの新しい組み合わせの数学的可能性は甚だ大きく、ガラス片の数が多くなればなる程、新しい、目のさめるような組み合わせの可能性もそれだけ増大する。(39ページ「アイデアは新しい組み合わせである」より)

自分の中に蓄積されたものにガラス片ではなくゴミがまざっているときに、それに気づく力もだいじ。自分の中にあるゴミだから。



私たちは言葉がそれ自身アイデアであるということを忘れがちである。言葉は人事不省に陥っているアイデアだといってもいいと思う。言葉をマスターするとアイデアはよく息を吹きかえしてくるものである。(61ページ「二、三の追記」より)

ここ数年でしみじみ感じていること。言語は「縛り」を可視化・可聴化しているものだから。言葉にしてみることで「とらわれ」「己を己の敵たらしめるもの」に気づくことはとても多い。




訳者あとがきに、ひとつ、おもしろいところがありました。
フランス詩人の明晰なエッセイを思い出しての訳者さん要約

 将棋というすぐれて緻密な思考力を要する "精神の遊戯" は、わが国でも昔から<親の死に目にも会えない>ほど人々を熱中させるが、その魅力の秘密はほかならぬ将棋の "ルール" にある。
 スポーツのルールにしても同じことだが、人間はわざわざ好んでこうした不自由な約束ごと、<アイデア>を創造して精神や行動の自由を束縛するが、そこからこそ抗しがたい魅力、深い喜びが生まれるといった主旨であった、と思う。
 なにしろ、将棋からそのルールをとり除けば、あとに残るのは唯の木の盤とたくさんの木片だけである。いや、ほんとうはそれすらもこの世にはない。(95ページ「訳者あとがき」より)

イデアって、束縛を楽しむ魔法だなと思う。



わたしが身近な友人に「文章化すべし」と言い続けるのは、この本に書いてある「原料集め」が体験できるから。自分の中から湧き出てくる言葉を集めるのも、すごく大切な作業。あれこれ見て行動して実践して身につけてますって言われても、アウトプットされなきゃ評価のしようがないし、画像は見たものの記録でしかない。
大変なのはその先。この本にもこんな示唆がある。

説明は簡単至極だが実際にこれを実行するとなると最も困難な種類の知能労働が必要なので、この公式を手に入れたといっても、誰もがこれをつかいこなすというわけにはいかないということなのである。
 だからこの公式は、大いに吹聴したからといって私がくらしをたてている市場にアイデアマンの供給過多が起こるというような実際上の危惧はまずない。(19ページ「経験による公式」より)

最も困難な種類の知能労働がそのあとに控えているのに、その手前でマニュアル求めてどうすんだよ、というふうに読み取れなくもない。これを読んで素晴らしいといっている時点で広告の仕事に向いてないかもね、と言われたも同然のような。


なんか踏み絵みたいな本でもあるなぁ。

アイデアのつくり方
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