白の使い方が印象的な佐久間真人画伯の絵と、作家・森博嗣氏の紡ぐ物語で展開する哲学ミステリィ。
ミステリー小説ではないので種明かしのような言葉はないのだけど、輪廻を繰り返した猫が追求し続けてきた「美」の正体とは何か。そんな問いかけがなされています。
この本を読みながら考えることは、とてもよい思考のトレーニングになります。回答はないけれど、わたしはこんなことを思いながら読みました。
この本を読んでみようと思う人は、まだこの先は読まないほうがよいでしょう。
猫は、「思慮」と「観察」の大切さまでは、今生で気づいています。
そして
理由もなく形が造られ、機能もなく存在するものは、おそらくこの世界にはない。
という思慮に至ります。
この、「おそらく」を問い続けます。
猫は「内側」と「外側」の境界に気づき、思慮し、観察します。
「その存在が大きすぎて気づかなかった境界」「小さすぎて見えなかった境界」があること
すべての「形」に共通するシンボルがあることに気づいていきます。
「猫」は「個」であり
「美」は「多様性」であり
そんなフィールドワークを続けたのち、猫はこんなことを思う。
少しだけでも、確かなものがあると、嬉しい。
自身の中にもある多様性に気づいた猫が、最後につぶやくこのフレーズが、ジーンと沁みます。
この猫はもう一度生まれ変わるかな。
わたしには、そこがミステリィでした。