うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

野心のすすめ 林真理子 著


バーの下は鮮やかピンクの「野心のすすめ」。
自身を振り返る自伝的教訓本。第一章はまろやかなんだけど、二章からドライブがかかる。最後は女の仕事論。林真理子小説をたくさん読んでいる友人が、読み終わったのをポンと貸してくれました。
彼女は女性の書いた色っぽい本をたくさん読む人なのだけど、わたしとは違う部分が刺さったのだろうな。
苦労話がたくさん載っていたけれど、あることないこと言われて大変な頃の話や、当時のマスコミの論調の話は「見た目の自虐ネタ」に結び付けられて、少ししかなかったのが残念。



いろいろ教訓が多かったなかから、いくつか。

一流の人か二流以下の人か、を見分けるポイントの一つに、「有名人の名前の出しかた」があると思っています。(59ページ)

人の名前を狩ることに抵抗のない人と距離を置くのは、地味だけど大事なディフェンス。



昔の私は、あからさまに「私のこと誘って!」「私も仲間に入れてー」っていう、縋(すが)るような目をする女でもありました。そういう人ってうざいと思うんですよね。(85ページ)

あっち側の人とこっち側の人の気持ちを両方わかったうえで、「うざいと思うんですよね」という微妙な主体性で丸められている文末がうまい。



あの時は、悪魔に魂を売り渡してもいいとさえ思っていました。普通のことを書いていたら、無名の自分が世の中に出られるはずはないとわかっていたので、何か過激なことをしなければならなかった。(96ページ)

女の子がそこまでしなくていいのに……、というのを見て複雑な気持ちになることがあるけど、林真理子氏の場合は振り返ってもそこに重さが漂わないのがいい! ちょっと売った魂でも、ふわふわしてないのがいい!



この本を読んでいて、「女は仕事にしがみつけ」というメッセージは西原理恵子氏と似ていると思ったのだけど、「魂の売り渡しかた」の方向性がちがう。女性読者のほうが多い人と、男性読者も多い人の違いという点でもおもしろい。などなどのことを、この本を貸してくれた友人に話したら、「だって西原さんはちょっとかわいいし、そもそもモテそうじゃん」と言われた。女同士のこの会話はちょっとおもしろかった。



一番大切だと思ったのは、ここ。
自分の小さな成功体験や人から褒められたことはたとえ些細なことでも忘れないよう、大切に覚えておくようにしていました。(88ページ)

記憶の刻み方の心がけ。あれだけ叩かれてもやっていけるのは、これしかないと思う。
出家せず俗世でやっていけてる理由をここに見た気がしました。



この著者さんは、ひどい言葉を浴びた量ベスト10に確実に入りそうな女性なので、チャレンジ伝もいいけれど、自分抱きしめ伝が励みになる人もたくさんいると思う。作家として瀬戸内寂聴っぽさも宇野千代っぽさも持ち合わせながら、現世利益的な価値観で太く生きている人って貴重だから。
サービス過剰と言うくらい要素の多い本なので、タイミングによって刺さるポイントが違ってきそう。悩みの共感の福袋みたいなエッセイでした。サービス精神のかたまりなんだなぁ。

野心のすすめ (講談社現代新書)
林 真理子
講談社
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