うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

つぶやきのクリーム The cream of the notes 森博嗣 著


常識にとらわれない100の講義」が面白かったので、こちらも読んでみました。
久しぶりにハマっているパターンです。この本も100のトピックについて書かれています。
世の中には「感情的に腹が立つこと」と「向けられた道理がおかしくて腹が立つこと」があるけれど、前者は自分の感情で後者は誰かの感情。人間である以上、誰にも感情はある。その接点を落ち着いて見直せば、ごきげんでいられる容量が増えるよね。というものすごくシンプルな教え。
わたしは本を読むときはお金を払って授業を受けるのと同じ感覚なのだけど、世の中には、自分のなにかをお金に換えたものを渡した以上は、自分の感情をぶつける権利があると思う人もいっぱいいる。この著者さんはそういう効果を引き出すおもしろい書き方をされています。リトマス試験紙っぷりがすごい、という感じかな。



ベースはそんな感じでありながら、

ある程度感情を乗せたほうが伝わりやすい。必要であれば、怒っている振りをするほうが効果がある。いずれも本質から外れた「技巧」であるけれど、それを学んだことが、四十になって作家になれた主たる理由だろう。
(54番目のエッセイ 「それを僕は十年も前から言っている」と話すことが多いが、それはもう三十年くらいまえからのことだ より)

と書いているのがまた、たまりません。こんなこと書いてくれる人、なかなかおらんよ、と思う。
勿体つけず、自己利益のバイアスを削ぎ落として(でも意識的に少しは感情を乗せて)ものを語る、ものすごく謙虚な人。でも一般的にはそれがあまり伝わらないみたい……というところがおもしろい。


この本は、「常識にとらわれない100の講義」よりもさらにインドっぽかった。わたしはなにより、この著者さんの「寝ることと死ぬことの類似性」「食べることと身体」の感覚のヨギっぷりに驚く。この本では、著者さんの死生観も少し感じられる。


「54番目のエッセイ:トラブルに対する対処こそが、仕事の本質である。」の中に、

力学にも「仕事」という専門用語がある。

という流れで書かれているところがあるのですが、ここはとても科学的でインド的。「聖なる科学」を現代の日常へ生かす方法が書いてあると言っていいのではないかと思うくらい、インド的の中でもスリ・ユクテスワ的なインド。
宇宙観でとらえる視点は石原慎太郎さんと似ているし(28番目のテーマがまさにそう)、情報商材の市場や電子書籍に対する感じ方も「やっぱりそうだよね」と思うことが語られていて、すっきりした。


100のエッセイの中で、86番目の「正直者が馬鹿を見るのは、その正直者が馬鹿だった場合だけだ。」は名作。
宗教色抜きでこういうメッセージを伝えるって、すごい技術だと思います。
モリ・ユクテスワ。これからわたしは心の中でそう呼ぶのだろうな。
(無理にダジャレでしめる必要もないのだが)

つぶやきのクリーム The cream of the notes (講談社文庫)
森 博嗣
講談社 (2012-09-14)
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