うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

身体で考える。内田樹×成瀬雅春(対談集)

ヨガ仲間のチカコさんが貸してくれました。いつも内田樹さんの本を貸してくれる人。合気道×ヨーガという組み合わせですが、どちらもやらない人にも楽しく読めると思う。
内田氏の本を何冊か読んだことがある人には、「成瀬氏を呼んで思いっきり身体論を語りたかったんですね、わかります」と、微笑ましくなるくらいの身体談義。ヨーガ党側からは、「もう少し成瀬氏のトークの文字量が多いほうが……(笑)」と思ったりしますが、それも含めてご愛嬌、な対談です。


何箇所か紹介します。

<44ページ 規制概念の枠を壊す より>
内田:秘密にされていたのは、「原爆の製造法」じゃなかったということなんです。問題は原爆というテクノロジーが果たして人間に操作可能かということだったんです。だから、実験に成功したという事実のほうを秘密にした。これは、「ほかにできた人がいる」と知った瞬間に、人間が自分の限界を軽々と超えてしまうということの適例ですよね。
成瀬:できないという思い込みがあると、絶対にそこから抜け出せません。だから、武道でもヨーガでも、芸術的なものでもなんでも同じだけれど、規制概念の枠が外れると、いろいろなことが可能になってくるんですよね。

「果たして人間に操作可能か」というのが密教的に伝わらないといけないものであった奈良・平安時代に思いをはせる。

<69ページ 若いうちはたくさん失敗したほうがいい より>
成瀬:僕は、貧乏ではなかったけれど、貧乏性なんです(笑)。中学を卒業したときに、すぐに働きたかった。高校3年間、お金を出して勉強するのがもったいないと思った(笑)。
 その3年間を働けば、逆にお金が入ってきます。出す分がゼロになるだけではなく、プラスになる。親と担任の先生には「働きたい」と力説したんだけれど、「高校だけは出ていたほうがいい」と、逆に説得されてしまいました。それで、泣く泣く高校に行ったんです。

自分が「時間貧乏性」なので、共感。こういうのはもって生まれた考え方の優先順位なので、変わらないと思う。

<117ページ 見るだけで運動能力は高まる より>
内田:他人の動きを見ているとき、脳内では、「ミラーニューロン」という神経細胞が発火しているそうです。他人と同じ動作を脳はシミュレートしている。筋肉への出力回路は遮断されているので、動きには繋がらない。でも、脳内では運動の「下絵」は描かれている。だから、このミラーニューロンをもう一度発火させて、出力回路に繋げば、理論的には、達人の動きをそのまま再現できる。あくまで理論的には、ですけど。

人の振り見て我が振りをシミュレーションできる人とできない人がいるのは、この神経細胞の感度の違いかな。

<122ページ 奥義・秘伝は最初に伝えるべき より>
内田:「奥義には順番があるから、まだまだお前には教えられない」という先生もいます。でも、どうなんだろう。奥義や秘伝というのは、実はいちばん最初に教えるべきものじゃないかと僕は思っているんです。最初に公開してもぜんぜんかまわないと思う。
 だって、初心者には、どうせ言ってもわからないんですから。わからないんだけど、なかには「おお、これは奥が深い」と思う人がいるかもしれない。極意を開示しないというのは、稽古する人たちはしょせん素人であって、名人・達人の境地を目指しているわけではない、という侮りがあるからだと思うんです。ちょっと汗かいて、筋肉がついて、ウェストが引き締まるくらいのことが目的で来ているなら、極意なんか教えるのは時間の無駄だ、と。
 でも、僕は、学ぶ側がどんな動機で入門して来たとしても、教える側は自分が習ったことのうちの最良のものをまっすぐに伝えるべきだと思うんです。

同じ言葉でもわかる人にはわかるし、わからない人は「時期が違う」「目的が違う」「それ以前にほかのことに気持ちが向いている」かじゃないかと思います。教える側は伝える稽古をしたほうがいいよね。だって教わる側は、教える人のために教わっているわけではないから。という視点ですごく共感する。

<173ページ 言葉にならないシグナルを感知する より>
内田:神戸女学院大学は山の上にあって、ちょっと「秘密の花園」みたいな閉じられた空間なんですけど、だから低刺激環境なんです。


(中略)


 そういうのを見るとわかるんですけれど、低刺激環境に人間を長く置いておくと、センサーが敏感になるんですね。不快な入力がないから、センサーの感度がよくなっても、それによって不利益をこうむるということがない。
 でも、逆に、都会で生活していると、センサーがいいと不快なことのほうがかえって多かったりする。都会って、目障りなもの、耳障りなものにあふれていますからね。うっかり感度をよくしていると、不快な刺激をもろに受け止めてしまうリスクを冒すことになる。
 だから、どうしても都会生活者は防衛的にいなるんです。感覚を閉じてしまう。サングラスかけて、ヘッドセットつけて、肩をいからせて、身体を硬くして、きびしい表情で、人込みを歩いてゆく。環境との同化なんて、無理なんです。そうなると、やっぱりコミュニケーションの感度も下がってくる。

都会にいながらどれだけオープンでいられるかってのは、最高の修業道場。

<176ページ センサー感度の劣化 より>
内田:現行ルールでは、相手の発信するメッセージを解釈する権利は一元的に受信者側に与えられていますから、「先に気分が悪くなったも者の勝ち」というルールでゲームをやっているんです。
 これ、よくないんですよ。だって、そうすると、次第に人々は互いのやりとりのなかで、「今、この人の言ったことを最低レベルで解釈をすると、どういうことになるか」ばかりを考えるようになる。
「あなたはほんとうは何が言いたいのか?」と問うことよりも、「このメッセージはどこまで悪く解釈できるか?」と問うことが優先されてしまうから。

内田氏はこのことをずっと言い続けていますね。身体論でも出てきて、「結局そこだよね」と思いながら読みました。


自分のことを良くできるのは、自分だけ。
ただそれだけのメッセージなのですが、それを社会情勢とあわせてフムフムと読める。その方程式に合気道とヨーガが使われている。そんな本です。

身体で考える。
身体で考える。
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