ほぼ全言葉を常用的に耳にする場面にいる自分は、情報商材で食っているIT企業のOLなんだなぁ、とあらためて思いました。展開されるツッコミがいちいちたまらない。
いくつか内容を紹介していきますが、この日記を読んでいるかたのなかには、「え? ほんとにそんな言葉を使う人たち、いるの?」と思うところもあるかと思います。でも、先に書いたとおりなんですが「わたしには、用法がわからない言葉がありませんでした」というくらいで、事実。ルー大柴のトークを見ているかのような気分になる人とか、実際にいます(笑)。
この本は、新社会人向けの説明っぽい語調で語られていますが、あきらかに「使っている人」向けの刺しかたで、とにかく面白いです。
↓こういうコンセプト
<5ページ(はじめに) 日本では、上司に「あなた」と呼びかけられません。 より>
(末尾)
日本語として間違ってなかろうが、上司に「あなた」と呼びかけてはいけない、ということこそが、オトナ語マスターの第一歩である。それは、日本人のオトナとしては間違っているのであり、「どうもどうも」なんかよりもずっとプライオリティの高いマストでありASAPで憶えてほしい課題なのである。
ではでは、いきます。笑えるよぉ。
<23ページより 「中長期的」>
いったいそれは長いのか長くないのか。「中長期的」にというのはどれくらいの期日をみているのか。長期と中期のあいだくらいが中長期なのか。長期よりちょっと足りないのが中長期なのか。そもそも中期も長期も具体的にどのくらいの期間を意味するのか。そう語られる背後には、あんまり長いと突っ込まれるし、でもすぐにというわけにはいかないしなあ、というオトナの思惑が見え隠れ。
言われたほうも詳しく問いつめたりはしないのだ。
そんなに気長でいいの? と言われて、「仕事のスピード感覚が遅い人」という自己照射をしたくない人のために作られた、ガラスのハートを守る単語です。ですです。やれやれ。○○○○年、○○月と書くのがリアライズ後のお仕事。
<29ページ 「本決まり」>
オトナの世界では「よし、これで決定!」となってもそこから二転三転することがままあり、ほんとうにそれが最終決定かどうかわかりづらい。そこで編み出された言葉が「本決まり」である。もちろん「本決まり」がほんとうに「本決まり」であるかどうかは誰にも保証できない。
「じゃあ、もう、これ、本決まりですね」
「たぶん本決まりですが、もう一度チェックします」
「……じゃあ本決まりじゃないじゃないですか」
「仮に本決まりとします」
ネバーエンディングストーリー。
最後の一行のしめが、たまらん。そのまま歌いはじめそう。
<47ページ 「いっぱいいっぱい」>
個人の請け負える仕事の限界を超えてしまって、身も心も余裕のない様子。
「きんきんにとんとんにしたいのですがゴタゴタ続きでばたばたしておりましてカツカツだというのがいまいまの状態ですからコミコミとなると無理無理やるしかないんですよねえ……」
「なるほど。いっぱいいっぱいなんですね」
きんきん、とんとん、ゴタゴタ、ばたばた……のすべての説明の後に、これがまとめ。面白いんです。
<55ページ 「某」>
会社や個人の名称を伏せて伝えたいときに使う言葉だが、オトナが「某大手代理店が……」などというふうに使う場合は、その場にいる全員がその名称を知っていることがほとんどである。ということは、「某」なんて言わなくていいわけなんだけど、なんか、そうやったほうが、秘密っぽいし、業界っぽいし、言ったほうも言われたほうも「にひひ」って感じがするので、いいのだよ。
なぜかこの「にひひ」は男性社会で目にする場面が多い傾向を感じるのですが、女子部はこれ「誰かさん」と言ったりして、かわいいですね。
<127ページ 「アグリーする」>
いや、さんざんいろんな横文字言葉を並べてきてこんなことを言うのはなんだけれども、これは「同意する」でいいんじゃないだろうか。でも、外資系企業などではふつうに使用されているとか。いやはや。けど、「怒る」ことを「アングリーする」とかは言わないのかな。
そのへんの境界は誰がどうやって決めているのだろう。
これを読んでいる同僚の半分以上がニヤニヤしながら読んでいそうですが、「基本的にアグリー」ってのがよくある用法。同意色が完全に逆サイドに移る、ものすごいサイドチェンジ用法。「基本的に」=「想定外ありそうね」だからねぇ。
<170ページ 「悪いんだけど」>
この切り出しから続く言葉は「拒否できない命令」と受け取るべきである。すなわち、「悪いんだけど」と言われた人はすでに死んでいる。あと、「悪いんだけど」と口にする人は、ちっとも悪いと思っていないので間違わないようにしよう。
「悪いんだけど、これ現場に届けてくれる?」
無意識に使っているなぁ。いや、意識はあるんだな。「めんどくせー! と一瞬でも思うことであることを、わたしはわかったうえで、頼みますよ」というね。
<175ページ 「すばらしい」>
会議でそんなふうに言われたとしても喜んではいけない。それは、「あ、ありがとうね」くらいの相づちにすぎない。
これ、けっこう使ってしまう。あーあ。
<176ページ 「美しい」>
膨大なデータを処理し、それを最後にたしかめたところ、ひとつのミスもなく完全な仕事だった。その表を前にして思わずつぶやく。
「美しい……」
理系の上司などがつぶやきがち。
これも、つかってしまう。あ”あ”あ”あ”あ”。でも、用法は「美しい流れ」「美しい循環」というのが多い。理系のパターンとはちょっと違うよ。
<203ページ 「近くまで来たものですから」>
と、言いつつ、近くまで来たから寄ったわけではない。周到に準備し、なんなら少し暇を潰し、タイミングを見計らって来たのである。
きっとその人は背広の奥に用件を隠し持っているのだ。頃合いを見計らって、「あ、そういえばですね」とか「倉島さん、これ知ってます?」などと言って来訪の真なる目的を打ち明けはじめるのだ。なお、ごくまれにではあるが、小一時間ほど話してもまったく相手が用件を切り出さないこともあり、「あ、ほんとに近くま
で来たから寄っただけだったのか!」と驚愕することもある。
わたしも、ほんとうに近くまで来られただけのことがあって、驚いたことがある!
なんかあわててお土産の調査資料とか情報とか用意してたのに、気づくと観光案内してたり(笑)。
<207ページ 「なるほどですね」>
営業マンなどが、非常に軽い相づちのようにして使う。
「あ、なるほどですね、それじゃ、こうしましょうか」
腑に落ちたこと、へりくだること、親しみの3つの要素をひと言に込める熟練の技。日本語の正しさは度外視。
これ、他者の営業さんの相づちで初めて聞いたとき「なめとんのか?」という感触を一瞬覚えて、なんだかショッキングなフレーズでした。
<213ページ 「いいか悪いかはべつにして」>
おいおい、それをべつにしちゃイカンだろう! けれどオトナはべつにするのだ。「いいか悪いかはべつにして、僕は好きですよコレ」などと言われても、喜んではいけない。なんせ、いいか悪いかはべつなのだから……。
別にしちゃうのー! っていうか、「いまさりげなく相手をマットからひきずり落としましたねアナタ」というフレーズ。オトナだっ!
<243ページ 「言った言わないの問題になってもなんですから」>
多くの場合、これを言う時点で、じつはすでに「言った言わないの問題」になっているのだが、こう言うことにより「自分は言った言わないの問題になりかけていることを認識している」ということをアピールすることができ、それ以上の泥沼をくい止めることができる。先に使ったもん勝ちな感はあるが、使う価値はあるかも。
わたしは、「はいいまこれ、ログにおちましたー」ってかんじで議事録を書いちゃったりします。子供だなぁわし。
<267ページ 「ミッション」>
オトナにとって会社は戦場であり、しばしばオトナはミッションを遂行しなくてはならないのだ。ミッションを遂行、というと聞こえはいいが、要するにふつうの業務をやることなのだ。気分だけでもジェームス・ボンドなのだ。ボンドさんだって、日本の会社に潜入した場合は「さようでございますか」くらいは言うと思うのだ。
おもしろいよねぇ、ほんと。
そして以下は、投稿シリーズから。おもしろいのー。
<253ページ 歌謡曲をオトナ語でアレンジ「待つわ」>
前略 貴社ますますご繁栄のこととおよろこび申し上げます。
先日御社の部長より直々に「わりとやるもんだね」とおほめの言葉を頂いた由、非常にうれしく思い、こちらもプロジェクトに対する気持ちを入れ直しました。
先週はちょっと出たり入ったりでして、行ったりきたりのすれ違いになってしまい、まことに申しわけございませんでした。
このままでは言った言わないの話になってしまい、進捗状況の報告もままならないと思いましたので、メールにてとりあえずのご連絡をいたします。
「空」に関しては、青く広いということで、どちらの所有でもないということが判明しました。
また、「雲」の件につきましては、何度もチャレンジしているものの、流して流されてといった感じで、なかなか次の段階にいけないのが実情です。
以上のことを鑑みまして、こちらの態度といたしましては、そちらの出方を待つということで決定いたしました。
最大限お待ち申し上げております。
逆に言えば、結果がどう出るにせよ、お待ちするということです。
そちらにもご都合があるかと思いますが、お待ちすることで一致しておりますので、競合他社さんとの兼ね合いもあるかと存じますがお待ちしているということをよろしくご配慮くださいますよう、お願い申しあげます。
(提供者:RS)
「空」「雲」のところ、おかしすぎ!
そして、「競合他社さんとの兼ね合いもあるかと存じますがお待ちしているということをよろしくご配慮」。よろしくご配慮! オトナ!
<310ページ アニメをオトナ語でアレンジ「サザエさん」>
Subject:始末書
お疲れさまです。
開発課のフグ田サザエでございます。
過日の私の失態につきまして、おわびいたしたく一筆申し上げます。
一昨日午後、侵入者により、当社の新商品サンプル「おさかな」が持ち去られた際、小職の行動は第一目撃者としての行動ではなく、即刻通報をするべきところ、その重責を怠り、しかも自席にて靴を脱いでいたために裸足で社屋外まで追跡いたしましたこと、近隣の皆様方にわが社のイメージを落とすような行為とご指摘を受けました点、深く反省しております。
また、その後、夕刻の会食会の不足物の調達のため、商店街へ出向きました際、持ち出すべき小口現金を忘れ、購入ができずそのまま帰社しました。
商店の皆様方からは失笑をかい、さらに会食の開始時間を大幅に遅らせ、業務に支障をきたしましたこと心からおわびいたします。
ひとえに私の不注意から、会社のイメージという大きな財産に対し、多大な損害を与えましたことまことに申しわけなく存じております。
深く反省し、今後は二度とこのような不始末をくり返さないように十分注意することをここに誓います。
何とぞ寛大な御処置を賜りますようお願い申し上げます。
(提供者:さとさと)
みんなが笑うようなことをしたら、そりゃ大変な損害! ル〜ルルルッル〜♪
末尾に載っている「オトナ語センター試験」もめちゃくちゃ面白いです。
いやぁ、笑った!
知らないうちに使ってたけど
実は実用書?
面白くてためになる!
クールな現代語辞典