うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? 井野朋也(ベルク店長) 著

新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店
同僚が貸してくれた本。めちゃくちゃ面白かった。
一緒にお昼を食べると、だいたいいつも「最近なに読んだ?」なんて話をするのですが、「ベルクって、知ってます? 新宿にあるんですけど」と言われて、「知ってる! あの小さな地下の小道のでしょ。新宿にヨガ道場があったとき、毎週末そこで一人で昼間にビール飲んでた・・・」「僕も今の仕事の前のレコード屋が新宿で、そこで飲んでたんですよ」と。行く時間は重なっていなかったのだけど、ルイトモだったようです。


3年前に、このブログとは別に携帯電話で書いていた行動ログ日記を紐解いてみたら、やっぱりあった。ベルクについて書いたプチ日記が! これは、この本にあったポリシーとぴったりマッチした日記だったので、感想の途中で紹介しますね。


今は毎週新宿へ行く生活ではないのですが、ここは今でもたまに行きたくなる、とても素敵なお店。うちこは港港に、一人でサクッと一杯いく、なにげな行きつけがあったりします。本を読みながらお酒を飲んだりします。店員さんやほかのお客さんにかまわれない店が行きつけになります。
このお店に興味がある人は、お店のサイトと、ファンが応援するサイト「LOVE! BERG!」もあわせて見てみてください。このお店の魅力がわかります。



この本なんですが、読んでみたらめちゃくちゃカルマ・ヨーガな本でした。
「めちゃくちゃインドだ!」って貸主に言ったら「えっと、どのようなところが?」「ホームレスに対するスタンスとか」となったのですが、説明しきれなかった。貸主はヨギじゃないからね(笑)。
ビジネスの本でもあり、カルマ・ヨーガの本でもあり、新宿カルチャーの本でもある。新宿のカオスっぷりは、インドに通じるものがあるよなぁそういえば。と、読んでみて気づきました。「大胆さとケチさのバランス」「アンチリタイア主義で体調管理」「活気がないと疲れるのは自分」のあたりなんかは、スワミの言葉そのもの。新宿喫茶聖人。


ではでは、紹介いきます。

<17ページ 「自分たちが食べたい」を基準にしたい より>
 ただ、化学調味料を使わないと味は薄味になり、立って食べるには不向きです。やはり化学調味料のような舌にすぐ飛びのる味の方が手っ取り早くて、立って食べるには向いているのです。そういう意味でのインパクトが化学調味料にはあるわけです。
 化学調味料や保存剤を使わないとなると、キャッチーさという点では負けるかもしれないが、鮮度がいいとか、噛みしめるほどに味わいがあるとか、匂いを嗅いで深呼吸できるとか、スパイスに工夫があるとか、そういうところで勝負するしかなくなります。

「舌にすぐ飛びのる味のインパクト」の感じ方とかは、とても内観的。呼吸の奥義も!



<21ページ マシーン選びのポイント より>
 少なくとも、メーカーに最初に確認するのは、メンテナンスシステムが整っているかどうか、つまりうちのような年中無休の店にも対応できるかということです。もうこれは半ば飲食店の常識ですが、土日祭日に限って壊れるものなのですね、機械というのは。平日と電気の流れが違うのか、調子が狂うのでしょう。

これも、わかるなぁ(笑)。



<32ページ 食べて食べて食べまくる より>
 日常生活では、いつどこで何を誰とどんな状況で食べるかによって、味は変わります。気分一つで美味しくもなれば、まずくもなる。まずは「気分」を遮断しなければなりません。クールに、頭をまっさらにして、試食用の頭に切り替えるのです。そして舌と鼻と目と耳とを研ぎ済ませ、連動させます。

食べる瞑想!



<59ページ 自然な接客をしたい より>
明るく「お一人様ですか?」といった接客ワードで、相手を無理やりお客様モードにさせる。あるいは相手もつられて笑いそうになるほどの満面の笑みが、接客の最大の武器になります。ただ、その笑顔を裏づけるものがないと、長く続けるのはしんどいですね。
 笑顔を裏づけるもの。それこそが商品です。自信を持ってお出しできる商品。

ここは、本当にそう思う。
師匠がヨガのことを、「インドの暇な人たちが大昔に考えてくれた。現代のボクたちは忙しい。だから、いいから、とにかく楽しくやりなさい。続けなさい」というのと同じだなぁ。古代からの裏づけ。



<67ページ 新宿西口のホームレス より>
場所柄、こうしたお客様と接する機会が多い。そのせいか、ホームレスっていう人種がいるのではない、というごく当たり前のことに思い当たりました。それは個人としての人生のあり方で、いろんな事情があるのでしょうが、たまたまいま、家がないということじゃないか。


(中略)


店を自分のものだと思ってはいけない。
経営者はとかく店の都合を優先させてしまう。
でも、店はお客様のものだという意識も必要。
店はみんなのもの。
自分もその一員。

ここ、とても素敵。
インドでババ(「おっさん」の意)のチャックラワルティさんといろいろな話をしたけど(参考リンク:チャック2回登場の日)、彼は「いろいろあって、いまは、ここにいるね」って。話していると、私の話を聞きながらも、言葉を選んで哲学的な内省をずっとしている。英語で話せるし、愛と励まし満載のメールもくれる。でも、ほかのババと不思議な共同生活をしている様子はまあ、日本で言えば、ホームレス。(めちゃくちゃITリテラシーが高いのは、インドだからだってのと、チャックが元々貿易商だったから)
人生が大きな川の流れなら、彼岸でたまたま渦を巻いたり停滞している。川の一部で、そもそも水で、ゴミじゃない。



<77ページ 横柄なお客様もいるけれど より>
 ごくたまに、明らかな嫌がらせというのはあります。憂さを晴らすのが目的なのか……。ほかのお客様の迷惑になったり……。はっきりいうと営業妨害に当たる行為をするお客様は、もうお客様ではありません。ただの酔っぱらいなら、お客さん! 出口はこちらですよ、大丈夫ですか? お気をつけて! とリズミカルに退場させればいいですが、よほど悪質なら、ためらわずにお巡りさんを呼びましょう。困ったときは、助けてもらえばいいのです。彼らはそれが仕事ですから。

もうこれは、数の原理なんだよね。



<155ページ 師との出会い より>
 たとえ仕事上の付き合いでも、人との関係である限り、あまり打算的に考えない方がいいですね。立場が違えば、その時点でお互いに譲れることと譲れないことがあります。それだけ、はっきりしておけばいい。それ以上にこの人は利用価値があるとかないとか、そういうことは考えなくていいのです。考えてもしょうがないからです。

そう、その「瞬間の立場」が違うだけなのね。



<163ページ ビジネスは一生もの より>
 私も、よく立ち止まってこう考えます。ビジネスにお金は必要だけれど、お金のためのビジネスじゃないよな、と。ではビジネスとは何なのでしょう。ビジネスというより、もう少し範囲をゆるめてライフワークとしてみてはどうでしょうか。
 一生やれるという保証がなくても、人生や生活が豊かになるという意味での「ライフ」です。人生……それは、もう少し具体的にいえば人間関係であり、自分との関係であり、街との関係であり、自然との関係であり、宇宙との関係でもあります。

このあたりから、完全にヨガモードに入ってきます。



<168ページ セルフへの挑戦 より>
 それよりも私が気になってしょうがなかったのは、押野見先生の「セルフはやるな」でした。先生の後をつけていって、駅前の横断歩道の信号が赤になったところで、先生を捕まえました。コンサルタントをお願いするためです。「セルフをやるな」ということはセルフサービスの難しさ、問題点をよくご存知だからだ。それを教えていただくのが一番ためになると思ったのです。
 先生にまず「ベルク」のある場所を伝えました。すると、「それはセルフ(が一番いい)ですね」とじつに拍子抜けするほどあっさりした答えでした。

この押野見先生が、この本の「あとがき」を書かれています。
その状況であれば、こう。というまっすぐさは、「その点については、悟ってないの俺」と言ってしまう、スワーミ・ヴィッデャーナンダさんみたい。



<171ページ 気軽に立ち飲みできるカフェ より>
 女性が一人で気軽に立ち飲みできる店にしたい。迫川が最初から思い描いていたイメージです。
 迫川の熱い思いを語ってもらいましょう。

  *

 女性が一人で飲める店は、思いのほか少ない。女だって、一人で飲みたいときがある。気分が良くて、むしゃくしゃして、考えごとしたくて、ボーッとしたくて、男とおんなじです。でも女が一人で飲み屋に入ると、放っといたら失礼とばかりに見知らぬ男の人が話しかけてきます。無視すると愛想がないといわれ(赤の他人にいわれたくない)、ちょっと愛想笑いすれば、もう隙あらばという感じでうざい。なかなか一人になるのは難しい。
結局、缶ビールを買ってお家で飲むはめになります。女でも、お家以外でなんにも気にせずに飲める空間。それが願いでした。

そうなんです! いますぐ一杯やりたいとき、ってーのがある!
家で缶ビールじゃない。今だ! ってときがある。
前に職場の近くでひとりでサクッと飲んでたら、たまたま目が合った外国人のおじさんに、いちおう無愛想な日本人だと思われないようにちょっとニコッとしたら料理が運ばれてきて、話す羽目になったことがあって、そういうのが面倒なのね。
「あなたはとても知的な目をしている」って、「その知的な目がどんだけインド方面に向いてるか知らんじゃろ、このヨーロピアン!」と言えるわけもなく、「あら、インテリジェントなお仕事をされていらっしゃいますのね」と返すしかない名刺を渡されたりして、もう泥沼。


で、
ベルクさんは、そんな女性のために、こんな張り紙をしてくださっているんです!
▼過去の日記そのまま

副店長サイコー!(副店長さんは女性)

<187ページ 商売は大胆さとケチさのバランス より>
 商売はその日その日が勝負で、よけいに先のことがわかりません。ただそれは必ずしも絶望を意味しません。むしろ今日一日が充実している証拠かもしれない。
 先のこととは、とりあえず明日のことです。明日も今日と同じように勝負できるだろうか。それだけです。問題なのは。
 続ける。いえ、続いているといった方がよりリアルです。自分の意志を越えたところで店はまわっていますから。それが店の経営です。

ヨガのギアが、フルに入りましたよ。



<193ページ アンチリタイア主義で体調管理 より>
 四○歳までに老後の蓄えをすまそうと、死に物狂いで働く人がいます。リタイア主義というんでしょうか。目標が達成したら、引退して、余生を過ごす。結構なことですが、それって、もう完全に聴衆(消費者)におさまるということでしょう? だとしたら、急に空しくならないでしょうか。心の病気になりそうで恐い。映画も音楽も散歩も仕事も、生活の中に複雑に溶け合っているから、生かされる気がします。
 あと大事なのは、当たり前なことですが、体調管理ですね。「健康」という言葉をあえて使わないのは、私もそうですが(油断すると喘息の発作が出ます)、年をとればなおさら、病気と無縁でいるわけにはいかないからです。むしろ病気とどう付き合うか。
 私自身は、薬になるべく頼らないようにしています。薬はあくまでも症状を抑える応急処置です。薬を常用すると、別の病気を生み出しかねません。頭が痛いとかアトピーが出るといった症状は、身体のメッセージ、あるいは自然治癒のやむをえない過程です。それを科学的に消去するのはやはり怖いことだと思います。

アーユルヴェディックですよ。「病気とどう付き合うか。」 まるで沖イズム。



<198ページ 活気がないと疲れるのは自分 より>
 しょうがなさそうに仕事をするのが、じつは一番疲れるんです。活気は、スタッフが自ら生み出し、お客様にわけてさしあげればいいのです。そうすれば、結局自分に倍になって戻ってくる。それが店を長く続ける秘訣でもあります。

まるでヴィヴェーカーナンダ



<203ページ 「許せない!」というのも問題 より>
 法律は、弱者を守るといいますが、はじめから不利な立場に立つ者への配慮などはあっても、どんな場合でもフェアな判断が下せる絶対的な基準というものではありません。結局、ある程度過去の判例に頼るしかない。つまり法とは、一つの体系というより、データの集積なんですね。ケースバイケースとしかいえないところがある。
 話が大きく脱線してしまいましたが、世の中にはさまざまな人間がいる(人を殺す人もいる)ということを前提にしているという意味では、法律は社会通念(人を殺してはいけない)の先をいっているのです。

これも、非常にカルマの深いところをついています。



<208ページ 人材も予測不可能くらいに思っておく より>
 挫折なくして人間の成長はないと私は思うのですが、器用であるがゆえに挫折できない人もいます。決定的な挫折を味わう前に、器用に逃げてしまう。いつまでも同じところをぐるぐる回っている。そういう意味では、人の評価というのは一筋縄ではいきませんね。
予測不能で、まさにスローフードな世界です。

根底に、あらゆる生き物から学ぶような、そんな魂の考察が全般に漂います。



<243ページ 時間への反逆 より>
 天才と呼ぶしかない芸術家やスポーツ選手も、本当に才能に恵まれているのは、人生のある時期だけです。命を賭けた恋だって、次第にさめていきます。楽しいことであれ悲しいことであれ、時の経過は、不変であることを許さない。そう考えると、私たちの仕事は、いわば、時の経過に対する反逆ですね。
 三年前のベルクを君は知らないだろう、あのころのベルクはもっと凄かった、などと伝説を残したところで、飲食店の場合、何の意味もありません。変わらぬ味、変わらぬサービスが私どもの使命ですから。

継続する実践哲学のことば。



<246ページ 個人店の危機は、日本の危機? より>
 その場その場であたえられた仕事をこなすだけだったら、さっさと終わらせて、ひたすら遊びたいでしょう。でも、ひたすら遊ぶといっても、あたえられた遊びをただ消費させられるだけだったりして。
 仕事が遊びであり、遊びが仕事であるなら、無駄なことはけっして無駄ではなくなりますし、あらゆることが知らず知らずのうちに反応し合い、結び付き合い、熟成されていきます。

ここは、沖正弘先生の言葉そのまま。感謝と奉仕にあふれている。




やっぱり、何度も足を運びたくなるような「この場所では、ここしか思い浮かばない」と思う素敵なお店には、哲学が潜んでいるんだなぁ。現代で出版されている実践経営哲学本の中では、キング・オブ・ヨガ。一見ヨガとは縁遠い本のように見えるけど、蓋を開けてみたら、結局はヨギが愛するヨガな店。だったのでした。


▼唐突に登場する挿絵もヨガっぽかったよ(笑)

象さん、木のポーズでお運びちう〜

新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? (P-Vine BOOks)
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