うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 岩崎夏海 著

同僚が貸してくれました。
ほんとだ、めちゃくちゃ面白い! すごい経営哲学エンターテインメント。
過去に秋元康氏に師事し、「ストーリー」に関わるお仕事をされてきた著者さんのはてなブログハックルベリーに会いに行く」もめちゃくちゃ読み応えがあります。とっても仏教的なブログに見える(笑)。


小説なのでネタバレしないよう、引用紹介は少しだけ。
まずは、あとがきにあったここは紹介したい。

<269ページ あとがき より>
 例えば、アメリカで大リーグで「マネージャー」といえば、それは「監督」のことを指す。しかし日本では、真っ先に思い浮かぶのは「高校野球の女子マネージャー」だ。しかもそこには、「スコアをつけたり後片づけをする」といった、下働き的なニュアンスさえ含まれている。つまり、英語圏のそれとは、責任や役割において、指し示すものに大きな違いがあるのだ。その違いが、『マネジメント』を読むことによって、ますます広がったように感じられたのである。

うちこは20代で就職して、「フロアマネージャー」という肩書きの偉い人と名刺交換をしても、「決定権」のイメージはわかなくて、「でもなんだか偉い人みたい・・・」という感じで、日本語の「マネージャー」という言葉は本当にこの高校の部活のイメージが強いと思う。うちこはまず岩崎良美さんを想起します。ラグビーだけど。


この本は、主人公の「みなみ」が「マネジメント」を読みながら得たヒントと実践を行ったりきたりするので、「マネジメント」からの引用がちょいちょい登場します。なかでも、この展開はすごいなぁと思ったところを2箇所、厳選して紹介します。

<51ページ 第二章 みなみは野球部のマネジメントに取り組んだ より>
(マネージャーの「みなみ」と、同じくドラッカーを読んでいた野球部員/選手の「正義」の会話。みなみの問いから始まります)
「野球部の『顧客』って誰なのかな?」
「え?」
「私、それが分からなくてずっと困ってたんだ。この本にはさ、『企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される』って書いてあるんだけど、これは顧客が誰で、どんな人であるかによって、野球部が何であって、何をすべきかが決まってくるってことだよね? そこまでは分かったんだけど、肝心の『顧客』っていうのが誰なのか、さっぱり分からなかったんだよね」

この答えは、小説の最後にも登場する。もうわかっちゃいるけど泣いちゃう、という期待を裏切らない部活ストーリーの展開なのだけど、そのなかの会話のディテールに、こんな会話が登場する。
ちなみに、「みなみ」「正義」という、期待を裏切らないベタな登場人物の命名も好きです。この本は、著者さんの「伝えます」という気持ちが一貫しているのがいい。

<174ページ みなみはイノベーションに取り組んだ より>
みなみは、正義の打ち出してくるそれらのアイデアについて良し悪しを判断しないよう心がけた。時には疑問に思うものもないわけではなかったが、それを口には出さず、ほとんど無条件でその実行を手伝った。
 それは、アイデアの良し悪しを判断するのは自分の役目ではないと思っていたからだ。『マネジメント』にはこうあった。

 あらゆる組織が、事なかれ主義の誘惑にさらされる。だが組織の健全さとは、高度の基準の要求である。自己管理目標が必要とされるのも、高度の基準が必要だからである。
 成果とは何かを理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。すなわち、まちがいや失敗をしない者を信用してはならないということである。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。そのようなことでは、意欲を失わせ、士気を損なう。人は、優れているほど多くのまちがいをおかす。優れているほど新しいことを試みる。(一四五〜一四六頁) 

基本的に、みなみと正義のからみが舵取りをしていく展開。ここは、「みなみ」に一番マネージャーっぽい意識が感じられた場面。


それぞれの部員のキャラクターも、もう、わかっちゃいるんだけど、もってかれちゃう。子供の頃からアニメやドラマで何度も見ているような展開なのだけど、この本はストーリーを進めていく主人公の思想の整理が主軸になっている。「ドラッカーを下敷きにして王道の感動のドラマを作る」ということを純粋にやってみた作品。


コロンボを下敷きにした古畑任三郎と同類の面白さなんだけど、モトネタが哲学だから、奥行きが別の味わい。読みながら「ああ、なんだかここでウルっとくるのとか、うっとおしいんだけど、いいわぁ」みたいな「もてあそばれ感」もよいです。文章でおもてなしをしていただいたなぁ、と感じる小説でした。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎 夏海
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5 親父ギャグで周りを凍らせているオジサンビジネスマンもぜひ!
5 どっちからみてもすばらしい
1 多分まだ早いのだと思う
3 意外と良い。
4 話しとしてイイ。