うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

デッドエンドの思い出 よしもとばなな 著

ずっとヨガや仏教、禅道の本ばかり読んでいていると、うっかり頭の中が仙人化してしまうので、ときおりこういう本を読みます。お気に入りの古本屋さんで買いました。
日曜と月曜にこれを読んでいたときは、あまり気分にフィットしていないような感じがしていたのだけれど、また何度かページをめくっては、文字を追ってみたり。今週はそんな気分になることがあった。
この本には5つの短編が収められています。はじめの「幽霊の家」を除く4編に、共通するものを感じました。それは、主人公たちの「悲しいことがあったときや、心が痛むことが起きたとき、自分が立ち直るために誰かを悪者にする必要があるのだろうか?」という気持ち。あるがままの状況に自分を調和させていく過程が、とってもヨガ的。

「起きたことは、起きたこと。そこへたどり着くまでの幻想は、幻想。その状況に調和していくことが、生きていくこと。ただ、それだけ。」いま、そんな状況でがんばっている友達のことを思っているときだったので、本との出会いのタイミングというのは、本当に不思議なものです。

いくつか、心に残った箇所を紹介します。

<88ページ 「おかあさーん!」より>
 それから、家族のことで傷ついたことがない人なんて、この世にはひとりもいないということも、もうさすがにわかってきた。自分は全然特別ではなくて、みんなそれにうまく対処したりできなかったりの差があるだけで、いずれにしても家族に慈しまれてはぐくまれて、その反面家族というものに規定されてしまうのが、人間っていうものなんだ、と私はさとった。

規定されてしまうこともあるけれど、それでも大切な縁。他者がムードで規定することにひきずられて、自分の中に規定をつくるようなことは、しないほうがいい。

<137ページ 「あったかくなんかない」より>
 私はこの五年くらい。小説を書いて主に生計をたてているので、ものごとを奥の奥、深いところまで見ようといつも思っている。
 ものごとを深いところまで見ようということと、ものごとを自分なりの解釈で見ようとするのは全然違う。自分の解釈とか、嫌悪感とか、感想とか、いろいろなことがどんどんわいてくるけれど、それをなるべくとどめないようにして、どんどん奥に入っていく。
 そうするといつしか最後の景色にたどりつく。もうどうやっても動かない、そのできごとの最後の景色だ。
 そこまで行くと、もう空気も静かになり、全てが透明になり、なんだかこころもとない気持ちになってくる。でも感想は案外浮かんでこない。

ばななスワミ、リキタ・ヨギな発言。

<223ページ 「デッドエンドの思い出」より>
 全ての親が子どもに望むことって「できれば底の深さに気づかないでほしい」そういうことじゃないだろうか、だから、両親は今回のことを私以上に、大きくとらえているだろう。私がここで大きく落ちていかないように、かなり心配しているのだろう。
 人間はそうやって、大勢の力を出しあってどうにかして人を殺したりしないで生きていけるような仕組みを作り出したんだ……とまで考えが大きくなったとき、私はどうしてだか、インドの街角で犬の糞にまみれて暮らしているような人たちのことや、消費者金融にお金を借りまくって夜逃げしてしまった人や、酒がやめられなくて一家が崩壊、だとかシングルマザー、いらいらして子どもを虐待、だとか、姑と折り合いが悪くて殺してしまった、とかいう話が、ただただ重くていやで気味悪いものとは思えなくなった。

人の心の痛みがわかるということは、こういうことなんだろうな。

<234ページ 「デッドエンドの思い出」より>
「あの顔は、まじめに聞いてた顔じゃないな。あんな奴、つまんないよ。女を顔や体でしか判断しないタイプだな。」
「そこまででもないんじゃないかなぁ。いくらなんでも。」
「いや、俺にはわかる、あいつはものすごい男尊女卑で、絶対自分の女に自由を与えないタイプだ。」
「まあ……そこまでいうなら、別れてよかったかな。」
「俺にはわかるんだ。ああいう人って、ものの見方がすごくパターン化しているんだよ。あのね、ずっと家の中にいたり、同じ場所にいるからって、同じような生活をしていて、一見落ち着いて見えるからって、心まで狭く閉じ込められていたり静かで単純だと思うのは、すっごく貧しい考え方なんだよ。でも、たいていみんなそういうふうに考えるんだよ。心の中は、どこまでも広がっていけるってことがあるのに、人の心の中にどれだけの宝が眠っているか、想像しようとすらしない人たちって、たくさんいるんだ。」
西山君は言った。

西山君は、沖先生みたいなことを言う。


立ち直るお話が収められた本なんて普段あまり読まないのだけれど、商売カウンセラーのことばよりも、ずっと薬になるのではないかと思います。

よしもとばななさんの他の本への感想ログは「本棚」に置いてあります。

デッドエンドの思い出 (文春文庫)
よしもと ばなな
文藝春秋
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