うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

世界を信じるためのメソッド ぼくらの時代のメディア・リテラシー 森達也 著

ご近所友達のユキちゃんちの本棚から借りてきました。このシリーズ「よりみちパン!セ」は中学生以上すべての人に向けられた本で、以下のようなコンセプトの元に、たまらない書き手さんたちが気になるテーマについてまとめています。
ほとんどの漢字にルビがふってあり、かわいらしいイラストも満載の本です。シリーズの中に、読んでみたい本がいっぱい。
以下、出版社サイトの紹介から抜粋

●アップ・トゥー・デイトであり、かつ普遍的なテーマを、刺激的な書き手がコンパクトに書き下ろします。
●学校でも家庭でも学べない、キミが知りたいこと、知らなかった世界のことを、魅力的なおとなたちが心をこめて、書き下ろします。
●生きていくためのリアルなテーマが満載です!……でも、肩の力を抜いて、楽しく寄り道してくださいね!

今日感想を書くこの本は、テレビディレクターであり、映画監督、作家でもある森達也さんの著作。全編に愛のあふれる語り口で、でも、メディアを消費し、生産するわれわれにグサリとくる真実がいっぱいです。いくつか、紹介します。

<30ページ メディアは人だ。だから間違える。 より>
 複数のメディアが、サリンで被害を受けた河野さんが病院に運ばれる際に、「自宅で除草剤を作ろうとして調合に失敗した」と話していたと報道した。もちろん本当は犯人じゃない河野さんが、そんなことを言うはずはない。それに少し調べさえすれば、農薬や除草剤の材料からサリンなど作れないことはすぐわかる。でもメディアはそんな最低限の検証すらしなかった。河野さんを「毒ガス男」と呼び、『毒ガス事件発生源の怪奇家系図』という見出しの記事で、河野家の家系図を掲載した週刊誌もあった。

当時と、そして無罪判決のときのことを思い出して「こんなことがあって、いいのか」という思いがぶり返してきましたが、このような一方向にいっせいに加速する報道は、今もよくありますよね。食品を扱う会社に勤めている人は、新型インフルエンザにかかったなんて口が裂けても言えないであろう、昨今の状況もそう。

<47ページ メディア・リテラシー、誰のために必要なの? より>
 テレビの正式名称はテレビジョン。tele(遠く)とvision(見る)の合成語だ。遠くのものを見る。遠くばかりを見ているうちに、距離感がわからなくなる。遠くなのに近くのように錯覚してしまう。だから他人もなんとなく知人のような感覚になる。それがテレビ。

一般の人がセレブ(ってハリウッド・スターのことだけじゃないらしいことにもびっくりなんだけど)のように振舞う生活をしたがったり、実際そのようにふるまってみたり、などというのもこの麻薬によるものですね。

<93ページ キミが知らない、メディアの仕組み より>
 わかりやすさは大切だ。学校の授業だって、わかりづらいよりはわかりやすいほうが良いに決まっている。でもね、ここで大切なことは、僕たちが生きている今この世界は、そもそもとても複雑で、わかりづらいということだ。その複雑さをそのまま伝えていたら、情報にはならない。事件や現象を情報にするには、複数の視点は必要ない、少なくしたほうがいい。ひとつなら最もわかりやすい。

ここなんですよね。「気をつけないよりは、気をつけたほうがいいに決まっている」という新型インフルエンザが、「持ったら疫病神扱いだよ。品薄で高額でも、みんな買ってるマスク。え? 買わないの?」という変換になるのは恐ろしい。

<105ページ キミが知らない、メディアの仕組み より>
 悪い人が悪事を為す。僕らはそう思いたい。悪事を為すような人は、自分とは違う人なのだと思いたい。でも実は、人の内面はほとんど変わらない。僕は仕事の関係もあって、暴力団や右翼やマフィアや殺人犯で懲役を終えた人やテロリスト予備軍のような人たちに会う機会が、普通の人よりは少しだけ多い。でも、「これは救いようのないワル」だと思うような人に、いまだかつて会ったことがない。
 もちろん短気な人はいる。思慮の浅い人もいる。他人の痛みや苦しみへの想像力が欠けている人もいる。でも救いようのない悪人などいない。オウムの信者も北朝鮮工作員アルカイダのテロリストも、親を愛し子を愛し、喜怒哀楽もある普通の人たちだ。
 大多数の人たちは、これをなかなか認めたがらない。なぜならこれを認めてしまうことは、自分の中にも悪事を為す何かが潜んでいると認めることになるからだ。これは困る。連続殺人犯と自分のあいだには、大きな違いがあるはずだと思いたい。きちんと線を引いてほしい。だって彼らは特別な人たちなのだから。そう思う人はとても多い。

うちこは逆に、普通の生活の中で見かける悪意とか、なぜそんな攻撃をしなければならないほどに執着するのかわからない思いなどに怖さを感じます。「まさか、人を殺すような人とは思えませんでした」ではなく、「ありえなくはないな、と思いました」と思う行動をしている人を見ると、「紙一重だ」と思います。線なんて引けない。でも、そんな人たちともバランスをとりながら、普通に接している。これが、ただの「日常」だと思う。

<146ページ 真実はひとつじゃない より>
 テレビだけではない。メディアはすべて、事実と嘘の境界線の上にいる。それをまず知ろう。そのうえでメディアを利用しよう。NHKのニュースや新聞は間違えないというレベルの思い込みは捨てよう。でも、メディアは嘘ばかりついているとの思い込みもちょっと違う。人が人に伝達する。その段階でどうしても嘘は混じる。
 でもこの嘘の集積が、真実になることもある。それがメディア。だから何でもかんでも疑えばいいってものでもない。
 大切なのは、世界は多面的であるということ。とても複雑であるということ。そんな簡単に伝えられないものであるということ。でもだからこそ、豊かなのだということだ。
 これは断言するよ。僕は断言することが苦手なのだけど、でもこの世界は、意外に見くびったもんじゃない。憎悪や殺し合いや報復はいまだに絶えないけれど、でもあきらめることはない。未来を信じよう。そしてそのためにも、メディアをうまく使おう。

これは、ずっと続いていくことなんですよね。
メディアの話ではないけれど、大きな組織の管理職を集めた研修で、リーダーシップ論を語るときにガンジーが引き合いに出されていたりする。たしかに大勢の人を率いてインドを独立に導いたのもガンジー、不可触民(ダリッド)に「神の子」というキャッチコピーをつけて、断食を徹して奴隷社会をキープするために体を張ったのも、ガンジー。どちらも事実なんです。なのに、どちらかだけを切り出したりしちゃうんです。こんなこと、わかりにくいですもんね。

メディアのみならず、身近な人のうわさ話もそう。個人の関係は、個人同士にしかわからない。仲間と気が合う理由なんて、口にすればするほど「自画自賛」みたいになったりする。みんなにとって100%真実ではない無駄口はたたかずに、静かに確かめ、見つけた真理は「みんなにとって100%真実ではないかもしれないノイズ」に惑わされず、しっかり実行する。そんな信念を問われているような気がしました。

世界を信じるためのメソッド―ぼくらの時代のメディア・リテラシー (よりみちパン!セ)
森 達也
理論社
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おすすめ度の平均: 5.0
5 いい本
5 短所もあるが
5 本来の対象年齢以上の人にも読んで欲しい
5 中学生のみならず、大人も知らなければならぬメディアの怖さ
5 10代、20代の若い人たちにぜひ! と、おすすめしたい一冊