うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ヨガの楽園 秘境インド探検記 沖正弘 著

ヨガの楽園 秘境インド探検記 沖正弘
これは、沖先生のはじめての本かと思われます。昭和37年出版、220円! 内容がものすごいです。ヨガに対するあらゆる誤解に200%の怪しさでお答えする、そんな本です(笑)。
この本の存在をずーーーっと気にしながら、ひょいとアマゾンの中古でわりと良心的な値段で登場したところで即購入。年期の入ったものが届きました。光文社カッパ・ブックス。光文社さんの素敵な仕事ぶりは、先日絶賛したばかり。
手に取った瞬間、ヤバさ炸裂。

表紙の6行コピーが、これです。

ヨガ行法の効用
精神で肉体を自由に支配できる
テレパシーで人の心が読める
ノイローゼは さかだちで直せる
おとなでも 背丈は三センチ伸ばせる
だれでも百歳まで生きられる

今だったら誇大広告とJAROに訴えられそうなくらい、気持のいい言い切り!


背表紙はもっとヤバい。

スリープレス・オキ(眠らない沖)。これは、アメリカの貿易商チャンドラー氏がつけたニックネームである。一日平均三時間しか睡眠をとらないからだ。
(中略)彼の体は、精密な計器のようだ。たとえば、食べたサシミがちょっとでも古かったとする。彼の胃腸はとたんに下痢をおこして、体の外に有害物をシャアシャアと出してしまう。こうして、二時間後には、もうもとの健康体になっている。── これが彼の特技である。

光文社のかたが沖先生に抱いた驚きがこのように表現されています。


前書きには

この本を書くにあたって、ともすれば書斎にひきこもって、仙人じみた生活をしていた私を、夜の都会の雑踏や、昼下がりのオフィス街に連れだし、現代生活を味わわせてくれた「カッパ・ブックス」の副編集長、長瀬博昭氏と、編集員の新田雅一氏に、厚くお礼を述べたい。

わたしもお礼を述べたい!


さて、ここからやっと本文の紹介です。

<67ページ 記念すべきヨガ入門の日 真冬にする水浴 より>
「ぼくは、神経痛だから、水浴は遠慮するよ。」と断わった。すると、「やると決まっていることを一つでもしりごみすると、他のこともやりたくなくなるものだ。ぼくは連れて来た責任上、全部きみといっしょにやる。」

前者は沖先生、後者はお友達のシュンクさん。シュンクさんの言葉は名言。そして沖先生の様子は、カリアッパ師に出会ったときの中村天風先生の姿と重なります。

<90ページ 二十五日間の断食ができた 意外!断食で健康がよみがえった より>
 もちろん、断食中でも、ふだんと同じように生活する。私も、体操や瞑想を、ふだんのとおりに行なった。断食中は、血が浄化されるためだろうか、筋肉が柔らかくなって、体操がしやすかった。しかも、たいして疲労も感じない。ものを食べなければ動けない、と思っていた私の先入観は、完全にくつがえされた。まだある。汗がくさくなくなった。蚊がささなくなった。睡眠時間も少なくてすむようになった。

「蚊がささなくなった」ですって。やっぱりそうなんでしょうか。

<115ページ 性を研究する 春画の大展覧会 より>
「ヨガは禁欲の教えかと思ったら、そうではないんだね。きみもヨガ専門研究者とは言っているが、どこかで適当にセックスを処理しているんだろう。」とつめよった。
 アナンダは、とつぜん私の大声に、一瞬、目をぱちぱちさせ、驚いたような顔をしたが、にこっと笑って、こう言った。
「だれ一人、ヨガは禁欲だなどとは言ってない。きみがかってに禁欲だと思っているんじゃないか。ヨガは自分の能力を最高に開発すると同時に、その能力をコントロールする力をも身につける訓練法だ。私はずっとセックスは断っている。しかし特別に禁欲しているなどと考えたこともないな。なぜ、とつぜんそんなことを質問するんだい。」

詰め寄ったのは、沖先生。その後、ものすごい好奇心でこのへんを研究される流れが面白いです。人前で行為する部族を訪ねていったりするエピソードなどなど。

<165ページ 長寿の条件はなにか 小食こそ長寿の秘訣 より>
 まず、いちばん目についたのは食事だ。
 みな、申し合わせたように、じつに小食だ。量は日本茶碗に一日一杯半ぐらい。一日一食らしく、いつ食べるとも決めず、空腹の時に一回、食べている。食糧は、各自が自由に選んでいた。
(中略)
 おもしろいことに、絶対に二種類以上を同時に口に入れない。これはいわゆる食い合わせで、栄養分がこわれることを防ぐためだろう。それに、その方がたしかによくかむことができる。
 そのほか気がついたことは、
 1)じつによくかむこと。一口入れたら、百回近くもかむのではなかろうかと思った。
 2)毎日の副食をかえていた。
 3)熱い食べ物や冷たい食べ物は食べない。かならず、体温に近いものをとる。
 4)大豆、ゴマ、クルミ、蜂蜜をかならず用いていた。
 5)十日に二日ぐらいの割合で、断食していた。
 6)いろいろな木の葉、野草を乾燥させた薬のようなものを飲んでいた。
 7)一日一回、冷水で腹をひやす。便秘しないためらしい。

「かならず、体温に近いものをとる」というのは、わたしも大切なことだなぁと思います。なかなかできないのですが。お弁当生活とか、ほんといいんですね。

<171ページ 長寿の条件はなにか 人間的長生きと、動物的長生き より>
 百五十二歳のバーバは、毎日一つ、新しい、哲学的な問題を考えだして、それにとりくむと言っていた。また、どの長寿者も探究心が強いらしく、私に対してもいろいろな質問をしていた。たとえば、全学連の問題、共産党の問題、安保問題など、現代の世界情勢にもくわしかった。
 さらに、毎日かならず古典を二時間読む人、アラビヤ語経典をインド語に訳している長寿者もいた。私はこれらの人たちの頭からは、ぜんぜん老人的ボケを感じなかった。
 私は長寿者探訪で、長寿者には二種類あることに気づいた。二種類とは、動物的長寿者と人間的長寿者である。人間的長寿者とは、第一に頭がボケていないこと。第二にどんな環境にも適応して生きていける工夫と能力が身についていること。その二条件が備わっていることだと思う。
 私は日本でも十名近くの長寿者に会っている。しかし、これらの長寿者の大半には、うんざりした。それは魂のぬけがらのようにボケていたからで、私には、ただ生きているというだけの存在としか思えなかった。
 これらのボケた長寿者を、動物的長寿者と私は名づけたいのである。なぜならば、動物的長寿を保つには、生理的にも心理的にも、ストレスの少ない環境に住んでいればよいわけだからである。たとえば、無菌環境で育てた動物は、有菌環境で育てた同一の動物より倍以上の長生きをするそうだ。こういう条件は、だれにでも与えられるものではない。

「動物的長寿者」と「人間的長寿者」。「どんな環境にも適応して生きていける工夫」をそっちのけで「生きる」ためだけのワイドショー的健康法、そして、子供の将来の幸せを犠牲にしてまで動物的に生き延びる高齢者の現状。働き盛りの介護自殺者が確実に増えている現代に、グサリとくる指摘。

<178ページ サラリーマン、学生のためのヨガ ノイローゼは、すぐ直る より>
東京へ帰ったころ、ヨガでノイローゼは直るか、と相談に見える人が多いので、ふしぎに思ったことがある。私は、インドでノイローゼにお目にかかったことがなかったからだ。どういう動機でヨガを知ったかしらないが、その人びとの訴えを聞いてみると、現代の世相を反映する現代病として、ノイローゼやマネージャー病が大流行なのを感じた。
 ノイローゼは、心の混乱状態が原因で、体の働きにまでブレーキをかけて、そのために生活の支障をきたしているものだ。ヨギは、心が平静になるテクニックと、心で体を自由に支配する方法とを教えるものだから、ヨガは、ノイローゼのような病には、うってつけの方法であると思った。
(中略)
 ノイローゼというのは、人一倍欲求の度合いが激しい人に多い。そして、その欲求が、正しい処理法を知らず、わるい方向に出てくるくせがついてしまっているのだ。このくせを強制的にとりのぞいてしまうのが「断食と運動」療法なのである。

今でいう「うつ」ですかね。


全般、ものすごく「いい雰囲気、いいノリ」の本です。持っているだけで、昭和高度成長期にタイムトリップしたような気分。

ヨガの楽園―秘境インド探検記 (1962年) (カッパ・ブックス)

ヨガの楽園―秘境インド探検記 (1962年) (カッパ・ブックス)


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