今年に入ってから、石川雲蝶作品のある新潟県のお寺、神社探訪記を6つ(永林寺、西福寺、本成寺、石動神社、十二神社、穴地十二大明神)書きました。
どこへ行ってもあまり詳しい情報がなかったのですが、すばらしい本を見つけました。
そうそう、こういうガイドが欲しかったんです。
雲蝶作品の神社を巡っていると、まるでジョンとポールのように、雲蝶と双璧をなす彫り師の作品に出会うことがあります。その名も、小林源太郎。
石川安兵衛(雲蝶)は豊島区生まれ、小林源太郎は熊谷市生まれ。同時代に越後へやってきて、ときに共作もしていた二人。タッチがまぁるくユーモラスな雲蝶と、キリリと鋭い源太郎。
性格も、そんな二人だったのだろうかなどとイメージを膨らませながら見るのもまた楽しい。
著者の木原尚さんがとことん調べて、写真とともにガイドしてくださる。
この方のお名前は、穴地十二大明神にあった貼り紙解説で知りました。
関連人物年表。本気度あふれる内容だわ、と思いました。
この紙に、(木原尚 調べ)を書いてあったのです。
すばらしい取材調査。お弟子さんの名前まで書かれていたり、「これ雲蝶っぽいけどこのあたりはなんか違うタッチにも感じるんだよなぁ。どうだろう」と思っていた作品への回答があったり、浅彫りの作品の魅力もしっかり紹介されている。
お弟子さんをいっぱい持った大先生だったってことは、巡っているとだんだん感じられてくるのだけど、作品そのものがどうにもチャーミングで、そういう雰囲気を感じさせない雲蝶。
こんなエピソード紹介がありました。
雲蝶の性格は気早やで、欲がなく、風姿容貌にこだわりを持たず、酒を好み斗酒も辞さないという酒豪っぷりだったという。終日盃を傾けて悠々楽々構想を練り、刀を少しも手にしなかった。けれどもひとたび刀を握れば寝食を忘れ制作に心血を注いだという。
作品そのまんまの人!
仙人を彫るときに近所の老婆の姿勢を毎日見ていたら、老婆が勘違いしておしゃれをするようになって、「わたしに気があるのか?」と雲蝶に言ってきたというエピソードがある。その返しは「今日からおまえには用がない」って。
おもしろいなぁ。
そういう雲蝶の人柄の面白さを、写真でもしっかり紹介してくれています。
さりげなく年号や名前が、こんなところに、こんなふうに彫られていたりするんです。
だから、ハマっちゃう。
年表も歴史解説もしっかり。新潟県民は必携の一冊。上越・中越・下越を網羅しているから、行きやすいところはあるはず。
見るだけで何の説明もなく感動できるものは、いいですね。
この本は新幹線の止まる駅でぜひ売って欲しい。
越後湯沢なら「雲蝶・酒・風呂」の三拍子で、極楽気分の観光ができる。夏の長岡なら「雲蝶・花火・酒」なんていうプランも可能。呑む前に見る。酒とセットでおすすめしたい芸術です。
▼雲蝶作品めぐりの写真や記録のインデックス
●新潟県で石川雲蝶の彫刻作品をめぐる